新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の流行状況においては、感染拡大初期よりこれまでに9回の流行波が存在しています。2022年11月から2023年初めにかけてみられた第8波では、最も多くの死亡者数が確認されました（図1）¹⁾。その後の2023年の第9波においては、死亡者数は減少しているものの、感染者数は第8波と同程度までになるのではないかと予測されていました。

2023年3月まで、COVID-19に関しては全数届出とされ、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム（HER-SYS）及び自治体公表情報により感染状況が把握されてきました^2）。その後、2022年9月26日からの全国での全数届出の見直しを経て^2）、現在では、COVID-19の5類移行に伴い、全国約5,000か所のインフルエンザ/COVID-19定点でのサーベイランスにより流行状況が把握されています^3）。2023年のCOVID-19の報告数は、おおむね第8波と同等か、減少傾向にあると推測されていました（図2）^4）。しかしながら、第9波では軽症者や無症状者が多く確認されました。当然のことながら、無症状者、軽症者は受診しませんので、実際には報告されている患者数は氷山の一角であり、これらを超える感染者が地域に存在していたことは明らかです。

日本における感染症サーベイランスの一つとして、これまでにポリオウイルスの下水サーベイランスが実施されてきました^5）。この下水サーベイランスの基盤を活用しつつ、2020年8月に研究班が立ち上がり、COVID-19の流行状況を把握するための新たなサーベイランスとして、下水中のSARS-CoV-2調査への取り組みが開始されました^5）。
新型コロナウイルスによる感染が成立すると、上気道のほかに、腸管でのウイルス増殖が認められます^5）。感染したヒトの唾液や糞便にはSARS-CoV-2が含まれることから、地域に感染者が存在する場合には、下水中にヒト由来のSARS-CoV-2が存在することが推察されます^5）。このため処理場への流入下水の調査を行い、下水中のSARS-CoV-2を監視することで、地域におけるCOVID-19の流行状況を把握できる可能性があります^5）。
2024年1月時点で、山梨県、小松市、札幌市、滋賀県、養父市、神奈川県等といった、複数の地方自治体で下水サーベイランスが実施されています^5）。例えば、神奈川県では県内に2ヵ所の調査対象流域・施設を定め、2021年11月から調査を開始しています^6）。そして取得したデータから、ウイルス量と新規感染者数の比較グラフ等を作成、公表しています（図3）^7）。

こうした下水サーベイランスのデータにより、現在は、第9波において第8波と同程度のウイルス量が地域内に存在しており、減少傾向にはあるものの、依然として地域にウイルスが残存している状態であることが示されています。
COVID-19の感染者のサーベイランスにおいては、軽症者・無症候者が多いことから難しい状況ではありますが、新たな取り組みによる流行状況の把握も可能となってきています。また、WHOは下水サーベイランスのデータから、2023年のJN.1変異株の流行は今回のパンデミック中最も多いか2番目に多い感染者数であったことを述べています^{8 ）}。

参考資料

1）厚生労働省：データからわかる－新型コロナウイルス感染症情報－
    https://covid19.mhlw.go.jp［2024年1月15日閲覧］
2）国立感染症研究所：IASR Vol. 44 p102-103: 2023年7月号　COVID-19サーベイランスの定点化以降の週報での情報還元について
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2612-related-articles/related-articles-521/12158-521r02.html　［2024年1月15日閲覧］
3）厚生労働省：感染症法に基づく医師の届出のお願い　2．定点把握（指定した医療機関が、患者の発生について届出を行う感染症）
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/kekkaku-kansenshou11/01.html#list06［2024年1月15日閲覧］
4）国立感染症研究所：感染症発生動向調査 週報（IDWR）
    2023年第51週（12月18日〜12月24日）、2023年第52週（12月25日〜12月31日）：通巻第25巻第51・52合併号
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2023/idwr2023-51-52.pdf［2024年1月15日閲覧］
5）下水中の新型コロナウイルス（SARS-CoV-2）調査プロジェクト：NIJIsプロジェクトについて
    https://nijis.jp　［2024年1月9日閲覧］
6）神奈川県：新型コロナ・下水疫学調査について
    https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/simulation.html［2024年2月28日閲覧］
7）神奈川県：下水疫学調査結果　時系列(2月)
    https://www.pref.kanagawa.jp/docs/ga4/covid19/past_sewer/202311graph.html ［2024年2月28日閲覧］
8）WHO：Virtual press conference on global health issues transcript-10 January 2024
    https://www.who.int/publications/m/item/virtual-press-conference-on-global-health-issues-transcript-10-january-2024［2024年2月21日閲覧］