ファブリー病のエキスパートに聞く
ファブリー病における早期診断の意義
中村 公俊 先生
熊本大学大学院 生命科学研究部 小児科学講座 教授
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ファブリー病は、ライソゾーム病の一種であり、X連鎖性遺伝子が関わる遺伝性疾患です。この疾患は診断が難しく、発症から診断までに10年以上かかることも珍しくありません。
一方で、症状の改善や進行の抑制により患者さんのQOLを維持するためには早期診断が重要です。
長年ファブリー病の診療に携わり、新生児スクリーニングやガイドライン作成などにも取り組んでこられた中村公俊先生に、ファブリー病診療の特徴や新生児スクリーニングの意義、早期診断の重要性などについてお聞きしました。
ファブリー病患者さんの特徴
ファブリー病は希少疾患であり、特に成人領域では専門医が多くありません。当院は西日本におけるファブリー病の診断・治療機関であると同時に、ファブリー病を疑ったときの相談先という役割も担っており、乳幼児からご高齢の方まで、幅広い年齢層のファブリー病患者さんを診療しています。また、古典型といわれる重症なタイプから、重篤な症状が後から発現する遅発型までさまざまな患者さんもおられます。
ファブリー病特有の症状を知っておくことが早期診断につながる
ファブリー病の症状は多様であり、年齢により特徴的な症状が異なります。小児の場合、幼児期・学童期から四肢疼痛やなかなかよくならない消化器症状などを発症します1)。特に運動時や入浴時に手足の痛みを訴えることが多くありますが、母親も同様の症状を有していることがあり、「誰にでもある痛み」と考え病気と認識されないこともあります。
痛みを訴えたときに、一歩踏み込み「どのような痛みか」を詳しく聞くと、ファブリー病の特徴がみえることがあります。ファブリー病の患者さんと出会う機会が少ない先生方にも、そのようなファブリー病の特徴的な症状や好発年齢を知っておいていただくと早期診断につながりやすいかもしれません。
一般的に、小児に起こりやすい手足の痛みとして成長痛があります。成長痛は、夜寝るときなどの安静時に、ひざや足首などの関節部分が痛みます(図1A)。一方、ファブリー病の痛みは、指先や足先がジンジンする、手の平が痛いなど痛みの分布が少し広く、運動後や入浴時など暑いときに痛みがひどくなるなど、タイミングにも特徴があります(図1B)。一度ファブリー病の患者さんを診た医師は、二度目に症状を見逃すことはありません。診療経験のある医師にとってはそれほど特徴的な痛みといえます。
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図1A 成長痛
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図1A 成長痛
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図1B ファブリー病による四肢疼痛
参考:衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 167.
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図1B ファブリー病による四肢疼痛
参考:衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 167.
女性は男性より遅れて症状が出るため家族歴なども確認を
成人では、心肥大や不整脈、タンパク尿、腎機能低下、脳血管障害など、主に心臓や腎臓、脳の障害による症状がみられますが1)、いずれもファブリー病のみで生じる特異的な症状ではありません。古典型の患者さんでは、幼児期に四肢疼痛や発汗障害などの症状がみられていた場合があるため1)、併せて確認することが重要です。一方、遅発型では幼児期に症状が現れないため、疲労感やめまい、難聴など患者さんが自覚しやすい症状、タンパク尿や腎機能低下、心肥大や不整脈など健診で見つかりやすい所見が、ファブリー病を疑うポイントになります1)。
また、女性は一般的に男性より遅れて症状が出る傾向があるといわれ1)、手足の痛みなどが小学校高学年から中学生になってみられることがあります。臓器障害では、特に心肥大や不整脈など心臓の障害が起こりやすく、30代半ば以降は注意が必要です。
早期診断の重要性について
ファブリー病のように治療可能な希少疾患で大事なことは、治療のタイミングが遅れないようにすることです。臓器障害は、進行すると回復が難しいため、早期診断が非常に重要です。一方、非専門医の先生方が希少疾患を疑い、専門医に相談するまでには時間を要することが多いのが実情です。
簡便にできる「乾燥ろ紙血による酵素活性測定」の活用を
早期診断のためには、少しでも疑いがある時点で簡単に診断の道標を得られるしくみが必要であり、そのための手段として当院では、男性の場合乾燥ろ紙血による酵素活性測定を実施しています。
ろ紙血を採取して送付するだけの簡便な検査ですので、例えば心肥大が見つかったときなど、少しでも疑いを持ったらこのスクリーニング検査をしていただきたいと考えます。国内ハイリスクスクリーニングを行うと、心肥大を有する患者さんであれば100~200人に1人、腎障害の患者さんであれば500人に1人の割合でファブリー病患者さんが見つかります2)3)。頻度は高くありませんが、患者さんを発見するためには、少しでも疑いがある場合に検査を行うことが重要です。講演会でも「『ファ』とひらめいたら、『ろ』と思い出してください(ファブリー病を思い浮かべたら、ろ紙血を思い出してください)」とお話ししており、それを聞いた先生方から「ちょうど気になっていた患者さんがいる」と、ろ紙血が送られてくることもあります。このような意識がさらに広がり、積極的に検査していただけるようになることを期待しています。
乾燥ろ紙血を用いた酵素活性測定
ファブリー病が疑われる場合のスクリーニングのために、乾燥ろ紙血(DBS)を用いてGLA活性を測定することができます。
血液採取後、乾燥ろ紙血検体として送付いただくと、スクリーニング結果を確認することができます。
ファブリー病患者さんの早期診断、早期治療導入のために、
ぜひご活用ください。
※主に男性が対象となります。女性の場合、GLA遺伝子解析が必要となります。
製品に関するお問い合わせ
こちらにご連絡いただきますと
弊社担当MRより乾燥ろ紙血による検査キットをお届けすることもできます
くすり相談室|0120-566-587
月曜~金曜 / 9:00~17:30(土日祝日・その他弊社の休業日を除く)
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※登録完了まで数日要する場合がございますので、あらかじめご了承ください。
女性の確定診断には遺伝子解析が必要
ファブリー病の診断時には、細胞内ライソゾームの加水分解酵素である「α-ガラクトシターゼA(α-galactosidase A:GLA」の活性が低下することで起こる疾患であり、診断時には白血球GLA活性測定を行います。男性は酵素活性測定により確定診断できますが、女性では難しいことがあり、確定診断にはGLAの遺伝子解析が必要です1)。しかし、遺伝子解析は、乾燥ろ紙血を用いた検査のように「少しの疑いがあるだけで簡便にできる検査」とはいえません。
そのため、女性の診断では主に2通りの流れが考えられます。まず、渦巻き状角膜混濁や、マルベリー小体といわれる尿沈渣所見など、女性にも比較的みられやすいファブリー病の特徴的な所見があるかどうかを確認し、疑われる所見がある場合には遺伝子解析を行います。もう一つは、家族歴を調べ、ファブリー病の疑いのある男性がいれば酵素活性測定を行い、その結果により遺伝子解析を検討します。
患者さんが「早期に診断されてよかった」と思えるように情報提供を
ファブリー病と診断されたときの疾患の受け止め方は、患者さんやご家族によりさまざまです。そのため、検査や結果の説明には遺伝カウンセリングを含めて経験のあるところでお伝えすることが望ましいと考えています。ファブリー病という情報を知ることで、患者さんの精神的な負担や不安をできるだけ軽くし、前向きに疾患や治療と向き合えるよう支援や情報提供を行うことが大切です。
「早く情報を得られてよかった」と思っていただけるよう、ファブリー病の病態や経過、治療の選択肢やメリット、患者会等のサポート情報なども含めてお伝えします。適切に治療をすれば症状の改善や進行の抑制によりQOLを維持できる病気であると患者さんに知っていただくために、早期に診断することは大切であり、疾患理解を深めることは、治療を継続するモチベーションにつながると思われます。
一般社団法人 日本小児先進治療協議会(http://www.nihonsyouni.jp/list/kiji2019-2.html)(2023年1月30日閲覧)
新生児スクリーニングの意義について
新生児スクリーニングは、約50年前から行われてきました。近年、新たな疾患を追加して行う拡大スクリーニングが増えてきており、ファブリー病もその一つです。熊本県では2006年からファブリー病の新生児スクリーニングを実施しており、受検率は約95%です。
日本国内におけるファブリー病の発症頻度は男児で7000~8000人に1人といわれます4)。熊本県では年間約1万3000~4000人が出生しており5)、半数が男児と仮定すると、年間1人のファブリー病患者さんが発見されることになります。
ファブリー病は診断が難しい病気であり、発症から診断までに10年以上かかることも珍しくありません1)。自分がファブリー病であると知ることで適切な時期に適切な治療介入できることが新生児スクリーニングの大きな意義といえるでしょう。古典型の患者さんでは、小学校入学前ごろから原因不明の手足の痛みなどの症状が出現することがありますが、早期に治療を開始できることで痛みを減らしながら学校生活を送ることができ、成人後の臓器障害を防ぐことにもつながります。
新生児スクリーニングにより家族の診断や治療につながった症例も
新生児スクリーニングをきっかけに、1人の患者さんが診断されるとご家族や親戚に平均4~5人患者さんが見つかるといわれます6)。新生児スクリーニングにより、すでに発症している未診断のファブリー病患者さんが発見されることもよく経験します。
新生児スクリーニングがきっかけでファブリー病が見つかった古典型の男児の症例では、4歳ごろから手足の痛みが出現し治療を開始しましたが、実は母親も子どものころから20年以上、同様の痛みを抱えていたといいます。その後、母親に心肥大の症状が出現し、治療を開始しました。新生児スクリーニングにより男児の早期治療だけでなく、母親の診断と治療にもつながった一例です。
新生児スクリーニングの有用性を示すエビデンスの蓄積が重要
新生児スクリーニングによりファブリー病と診断されたお子さんには、当院では1年に1回程度の頻度で受診していただき観察し、新たにわかったことをお伝えしています。家族歴を確認することで発症時期を予測できるため、年齢に応じて「3歳になるので、そろそろ痛みが出てくるかもしれません。少し注意して様子をみてください」などといった指導や情報提供をしています。
現在、多くの地域でファブリー病の新生児スクリーニングは有料の検査ですが、希望する全ての人が受けられるよう公費負担となることを望みます。そのためにも私たち医師が、スクリーニング検査による早期診断の利点を明らかにし、予後改善など有用性を示すエビデンスを積み重ねていくことが大事であると考えています。
ファブリー病診療の今後の展望と先生方へメッセージ
ファブリー病の新生児スクリーニングが全国的に普及すれば、専門医のいない地域でもファブリー病の疑いのある乳児が見つかったり、治療が必要になったりします。今後は各地域での専門医の育成や、どの医師でもファブリー病診療に必要な情報を得られるためのガイドラインの作成など情報共有を促進することも必要と考えています。スクリーニング制度の確立がファブリー病診療の地域格差の解消につながることを期待しています。
「ファブリー病を疑ったらどうすればいいか」を知ってほしい
ファブリー病に限らず、希少疾患の方は、診断がつくまで自分が病気であることに気づかず苦しんだり、相談できる人がいなかったりという状況に陥りがちです。しかし、診断されると誰に相談すればいいか、次にどこに進めばいいかが明確にわかるようになります。早期診断を目指すと同時に、患者さんが必要な情報を入手できるよう啓発を進めることも必要といえるでしょう。
医学の進歩とともに治療できる疾患が増えており、ファブリー病もその一つです。かかりつけ医や非専門医の先生方には、まず「ファブリー病を疑ったらどうすればいいか」を知っていただくことを望んでいます。繰り返しになりますが、「ファ」とひらめいたら「ろ」を思い出していただき、まずはろ紙血をお送りください。その上で、専門医にご相談いただくことをお待ちしています。
参考文献
1)日本先天代謝異常学会; ファブリー病診療ガイドライン 2020, 診断と治療, 2021, 2-9.
2)Yamashita S et al, Circ J, 2019, 83, 1901-1907.
3)Nagata A et al., Nephrol Dial Transplant, 2022, 37, 115-125.
4) Inoue T. et al..J Hum Genet, 2013, 58, 548-552.
5) 総務省統計局; 日本の統計 2022, 2022.(https://www.stat.go.jp/data/nihon/pdf/22nihon.pdf)(2023年1月17日閲覧)
6) Germain DP et al. Mol Genet Genomic Med. 2021, 9, e1666.
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