STEP2 検査・診断について詳しく知る
診断のためのフローチャート
ファブリー病は、臨床症状と検査に基づき診断します。
ファブリー病診断のためのフローチャート
臨床症状の確認
ファブリー病を疑わせる四肢末端痛や腎機能障害、心機能障害、脳血管障害などの症状について確認します。また、ファブリー病は遺伝性疾患であり、女性ヘテロ患者の多くは家族歴から診断されることから、家族歴も診断の重要な指標となります。
検査の実施(確定診断)
男性の場合
遺伝学的検査[白血球α-ガラクトシダーゼA(α-galactosidase A: GLA)活性測定またはGLA遺伝子解析]。
女性の場合
遺伝学的検査(白血球GLA活性測定またはGLA遺伝子解析)。ただし、ヘテロ患者など白血球GLA活性が低下しない場合は、GLA遺伝子解析により診断します。またGLA遺伝子解析による遺伝子変異の同定が難しいヘテロ患者については、臨床症状と血中グロボトリアオシルスフィンゴシン(globotriaosylsphingosine: lyso-Gb3)、尿中または病理検体でのグロボトリアオシルセラミド(globotriaosylceramide: Gb3またはGL3、別名セラミドトリヘキソシド、ceramide trihexoside: CTH)の蓄積などを確認し、家族歴を含め総合的に診断します。
※国内において、ファブリー病の家族歴をもたないde novo症例の頻度は6.8%と報告されており、ファブリー病患者の両親にGLA遺伝子変異が認められない場合があります1)。
日本先天代謝異常学会. ファブリー病診療ガイドライン2020. 診断と治療社, 2021, 2-9.
ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版.イーエヌメディックス, 2018, 25-30.
小児慢性特定疾病情報センター(https://www.shouman.jp/disease/instructions/08_06_091/)(2022年8月1日閲覧)
1) Kobayashi M et al. Mol Genet Metab Rep. 2014, 1, 283-287.
検査の種類
遺伝学的検査
白血球α-ガラクトシダーゼA(α-galactosidase A: GLA)活性測定
基質(4-methylumbelliferyl-α-D-galactopyranoside: 4-MU-α-D-Gal)に対する白血球GLAの活性を測定します。男性では正常の10%以下に低下しますが、女性ではヘテロ患者などで低下しない場合があります。
送付するだけで簡便に診断可能
乾燥ろ紙血を用いた酵素活性測定のご案内
ファブリー病が疑われる場合のスクリーニングのために、乾燥ろ紙血を用いてGLA活性を測定することができます。血液採取後、乾燥ろ紙血(DBS)検体として送付いただくと、 スクリーニング結果を確認することができます。ファブリー病患者さんの早期診断、早期治療導入のために、ぜひご活用ください。
※主に男性が対象となります。女性の場合、GLA遺伝子解析が必要となります。
監修:埼玉医科大学 ゲノム医療科 希少疾患ゲノム医療推進講座
特任教授 奥山 虎之 先生
1|ファブリー病疑いの患者さんがお越しになられたら
Vol.1:疾患解説編
Vol.2:検査の意義編
2|DBSの取り扱い方法
製品に関するお問い合わせ
こちらにご連絡いただきますと
弊社担当MRより乾燥ろ紙血による検査キットをお届けすることもできます
くすり相談室|0120-566-587
月曜~金曜 / 9:00~17:30(土日祝日・その他弊社の休業日を除く)
白血球GLAの遺伝子解析
DNA配列におけるGLA遺伝子のエクソン、イントロン配列を調べ、ファブリー病の原因となる遺伝子変異の有無を確認します。ただし、一般的な遺伝子解析法では変異を同定できない家系が約5%存在します1)。
ファブリー病の診断のための遺伝学的検査は保険収載されています。ただし、衛生検査所にて検査を実施する場合は保険適用となりますが、研究施設で実施する場合は保険適用となりません。検査を依頼される際は、ご注意ください。
日本先天代謝異常学会. ファブリー病診療ガイドライン2020. 診断と治療社, 2021, 2-9.
ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版.イーエヌメディックス, 2018, 25-30.
小児慢性特定疾病情報センター(https://www.shouman.jp/disease/instructions/08_06_091/)(2022年8月1日閲覧)
1) Sakuraba H et al. Mol Genet Metab Rep. 2018, 17, 73-79.
その他の検査法(補助診断、保険適用外)
一般的な臨床検査により確認が可能な特異的所見として、尿沈渣中のマルベリー小体・細胞があります。マルベリー小体は灰白色で透明な特徴的な渦巻き状の構造をもった成分として観察されます。
その他の検査により得られる所見は、ファブリー病に非特異的なものですが、補助診断として重要です。
監修:大阪大学医学部付属病院 医療技術検査部門 主任臨床検査技師 堀田 真希 先生
(現:大阪鉄道病院)
血中lyso-Gb3、尿中Gb3の測定
ファブリー病患者のスクリーニングに有用な補助診断法の一つです。古典型男性患者では高値を示しますが、遅発型患者や女性ヘテロ患者では軽度から中等度の高さや健常者と区別がつかない例もみられます。
尿沈渣中のマルベリー小体・マルベリー細胞の確認
ファブリー病患者の尿沈渣には、灰白色で透明の特徴的な渦巻き状の成分が観察されることがあります。この渦巻き状の成分を桑実小体(マルベリー小体)とよびます。また細胞内にマルベリー小体が認められるものをマルベリー細胞とよび、マルベリー小体と同時に認められることがあります。ただしマルベリー細胞の出現数はマルベリー小体に比較し、とても少ないことを知っておかなければなりません。尿中のマルベリー小体・マルベリー細胞の検出は、ファブリー病の早期発見におけるスクリーニング検査の一つとして注目されています。
監修:大阪大学医学部付属病院 医療技術検査部門 主任臨床検査技師 堀田 真希 先生
(現:大阪鉄道病院)
監修:大阪大学医学部付属病院 医療技術検査部門 主任臨床検査技師 堀田 真希 先生
(現:大阪鉄道病院)
腎病理所見、心筋病理所見
腎病理所見、心筋病理所見ともに補助診断として重要です。ファブリー病患者の腎生検検体では、HE染色により糸球体上皮細胞の泡沫状変化、症状の進行により糸球体の硬化像が認められます。さらに腎生検検体のトルイジンブルー染色により、Gb3の封入体が観察できます。また、ファブリー病患者の心筋生検検体では、心筋細胞の空胞化と線維化が認められます。腎生検検体、心筋生検検体ともに、電子顕微鏡により同心円状の構造物であるゼブラボディが認められます。
日本先天代謝異常学会. ファブリー病診療ガイドライン2020. 診断と治療社, 2021, 2-9.
ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版.イーエヌメディックス, 2018, 25-30.
小児慢性特定疾病情報センター(https://www.shouman.jp/disease/instructions/08_06_091/)(2022年8月1日閲覧)
確定診断に進む前に ー遺伝カウンセリングについてー
ファブリー病は、細胞内ライソゾームの酵素α-ガラクトシダーゼA(GLA)の遺伝子(GLA)変異により発症するX連鎖性の先天代謝異常症です。遺伝性疾患であることから、ファブリー病が疑われる患者やその家族(クライエント)に対しては、適切なタイミングでの遺伝カウンセリングが重要となります。その一つが診断のための遺伝学的検査を行う際の遺伝カウンセリングです。日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では、遺伝カウンセリングは以下のように述べられ(表1)、その実施にあたっては、当該疾患に十分な経験をもつ医師と、遺伝カウンセリングに習熟した者(臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラーなど)が協力してチーム医療として行うことが望ましいとされます。
表1「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」日本医学会
遺伝カウンセリングは、疾患の遺伝学的関与について、その医学的影響、心理学的影響および家族への影響を人々が理解し、それに適応していくことを助けるプロセスである。
このプロセスには
1)疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈
2)遺伝現象、検査、マネージメント、予防、資源および研究についての教育
3)インフォームド・チョイス(十分な情報を得た上での自律的選択)、およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング
などが含まれる。
つまり、遺伝カウンセリングでは、家族歴や病歴を情報収集し解釈することにより当該疾患の可能性を評価し、疾患に関連する適切な情報提供を行いクライエントの理解を深め、クライエントの自律的な意思決定や状況への適応のための心理社会的支援を行うことが求められています。
通常、すでにファブリー病を発症している患者の診断を目的とする場合は、主治医による検査意義の説明後、書面により同意を確認し遺伝学的検査を実施しますが、ファブリー病未発症の血縁者の診断を目的とする場合は、遺伝カウンセリングで検査の意義、血縁者への影響などを説明し、クライエントの疑問や不安に丁寧に対応した後、書面により同意を確認し遺伝学的検査を実施する流れとなります。
遺伝学的検査を行う際に考慮すべき遺伝情報の留意点
- 遺伝情報は生涯変化しないこと
- 血縁者間で一部共有されること
- 血縁関係にある親族の遺伝子型や表現型が比較的正確な確率で予測できること(男性患者)
- 未発症患者の診断ができること
- 発症前に将来のリスクを予測できる場合があること
- 出生前診断に利用できる場合があること
遺伝カウンセリングの具体的な要点
①遺伝形式について
ファブリー病はX連鎖遺伝形式であり、男性患者の母親および娘は原則女性ヘテロ患者となり、息子はファブリー病を発症しない。女性ヘテロ患者の息子は50%の確率で男性患者、娘も50%の確率で女性ヘテロ患者となる。
家族歴のないde novo 症例が存在するため、男性患者の母親が女性ヘテロ患者でない場合がある。
②男性患者の診断について
男性患者は、白血球等のGLA活性、およびGLA遺伝子解析によって診断される。
男性患者の場合、白血球等のGLA活性の低下によりファブリー病と診断できるが、機能的多型の鑑別のためにGLA遺伝子解析を行うことが推奨される。
③女性ヘテロ患者の診断について
女性ヘテロ患者は、同じGLA遺伝子変異をもつ男性患者に比して症状は軽く、発症および進行は遅いが、ほとんどの例が加齢とともに心肥大等のファブリー病に特異的な症状を発症する。そのため、女性ヘテロ患者を臨床症状から診断することはむずかしく、家族歴から疑われることが多い。
女性ヘテロ患者は、GLA遺伝子解析で病原性変異を同定することで診断される。一般的な遺伝子解析法(エクソンおよびエクソン近傍のイントロン配列のシークエンス)でGLA遺伝子変異が同定できない例が約5%存在する。GLA遺伝子変異が同定できない場合、女性ヘテロ患者の診断は、家族歴、臨床症状、血中グロボトリアオシルスフィンゴシン(lyso-Gb3)、尿中あるいは病理検体でのグロボトリアオシルセラミド(Gb3)の蓄積の証明などを合わせて総合的に診断する必要がある。
④治療について
ファブリー病の治療法として、酵素補充療法、薬理学的シャペロン療法がわが国では保険適用とされている。薬理学的シャペロン療法を導入する際は、GLA遺伝子解析を行い、有効性を評価する必要がある。
日本先天代謝異常学会. ファブリー病診療ガイドライン2020. 診断と治療社, 2021,61-62.
日本医学会. 医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン. 2011, 6-8.
ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版. イーエヌメディックス, 2018, 31-33.
精密検査施設一覧
日本先天代謝異常学会のウェブサイトでは、ファブリー病診断のための精密検査を依頼できる施設が紹介されています。施設の中には、衛生検査所の登録をするなど、医療法の定める検体検査の基準を満たしていない施設も含まれます。検査内容などの詳細については、各施設にお問い合わせください。
日本先天代謝異常学会(http://jsimd.net/iof/iof_01.html)
(2022年2月1日閲覧)
日本先天代謝異常学会(http://jsimd.net/iof/iof_01.html)
(2022年2月1日閲覧)
監修:埼玉医科大学 ゲノム医療科 希少疾患ゲノム医療推進講座
特任教授 奥山 虎之 先生
1|ファブリー病疑いの患者さんがお越しになられたら
Vol.1:疾患解説編
Vol.2:検査の意義編
2|DBSの取り扱い方法
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