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ファブリー病のエキスパートに聞く

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血友病

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ファブリー病 医療関係者向け疾患情報

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フォン・ヴィレブランド病(von Willebrand病)

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後天性血友病A

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TTP(血栓性血小板減少性紫斑病)

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ファブリー病診療の現状と将来展望

衞藤 義勝 先生

一般財団法人 脳神経疾患研究所 先端医療研究センター センター長
東京慈恵会医科大学 名誉教授

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衞藤 義勝 先生

 

ファブリー病は、ライソゾーム病の一つであり、X連鎖性遺伝子が関わる遺伝性疾患です。この疾患は全身に多様な臨床症状を呈することや鑑別診断の難しさなどから、発症から診断までに何年もかかることも珍しくありません。一方で、症状の進行を抑制するためには早期診断・早期治療が重要です。そこで、日本におけるファブリー病研究の第一人者である衞藤義勝先生に、ファブリー病診療の現状と、早期診断や遺伝カウンセリングの重要性、将来の展望などをお聞きしました。


ファブリー病患者さんの特徴

当院を受診されるファブリー病の患者さんは、お子さんからご高齢の方までさまざまな年齢層の方がいらっしゃいます。症状は男性と女性でも異なりますが、特に男性では重篤な患者さんも診ています。
ファブリー病は、小児期から症状が現れる「古典型」と、成人してから心臓や腎臓などに臓器障害がみられる「遅発型」、女性に発症する「女性ヘテロ型」の3つに大きく分類されます1)。私が診療してきた患者さんのうち、古典型の男児では、5、6歳ごろから四肢末端痛、発汗低下、被角血管腫、腹痛などの症状が現れることが多いです。手足の激しい痛みや、汗をかけないことによる鬱熱で、特に梅雨時や夏場は不快感が非常に強くなり、登校できないお子さんも多くいます。女児では、男児ほど強い症状が出ることは少ないですが、やはり手足の痛みや腹痛などが起こることがあります(図1A)。

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図1A ファブリー病の発現が多い症状

衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 76.より作図

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図1A ファブリー病の発現が多い症状

衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 76.より作図

成人の患者さんでは重症の心不全、腎不全を認めることも

成人の患者さんでは、心不全、腎不全、脳梗塞のような脳血管障害などの臓器障害を認めることがあり、40歳以上では重症度が高い傾向があります。女性では、男性と比較して症状は軽度なことが多いですが、年齢が上がるにつれ心不全などが重症化することもあります。
また、ほとんど症状がみられない方から、非常に重症の方まで、症状の程度には個人差があります(図1B)。

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ファブリー病の発現が多い症状
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図1B ファブリー病の発現が多い症状

衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 76.より作図

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ファブリー病の発現が多い症状
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図1B ファブリー病の発現が多い症状

衞藤義勝ら編. ファブリー病 UpDate 改訂第2版. 診断と治療社, 2021, 76.より作図


早期診断の重要性について

心不全や腎不全などの重篤な合併症を予防するために、ファブリー病を早期に診断して治療を開始することが重要です。
ファブリー病は、遺伝性疾患ですので患者さんのご家族も罹患していることが多く、患者さんが1人見つかると、ご家族や親戚の方が続々と診断されることも珍しくありません。早期診断には、患者さんのご家族や親戚のファブリー病を早期発見できる意義もあると思います。

男性と女性で確定診断の方法が異なる(図2)

ファブリー病の診断は、男性と女性でやや異なり、女性のほうが難しい傾向があります。

男性の場合、まずは臨床症状を確認します。小児期であれば手足の痛みや発疹、汗のかきにくさ、成人であれば尿タンパクや心肥大などの症状がみられる場合にファブリー病を疑います。家族歴も確認します。ファブリー病に限らず、がんや心臓病、腎臓病など遺伝に関わる疾患は多く、いずれの疾患でも家族歴を知ることはとても大切です。両親や兄弟姉妹はもちろん、遡って祖父母や親戚などについても聴取し、心臓病や腎臓病を有する方が多い場合などもファブリー病を疑うことがあります。

ファブリー病は、細胞内ライソゾームの加水分解酵素である「α-ガラクトシターゼA(α-galactosidase A:GLA」の遺伝子変異による疾患であり、GLAの活性が低下することで基質のグロボトリアオシルセラミド(globotriaosylceramide:Gb3またはGL3、別名セラミドトリヘキソシド、ceramide trihexoside:CTH)が組織に蓄積してさまざまな症状を引き起こします1,2)。そのため、症状や家族歴などからファブリー病が疑われる場合は、白血球GLA活性測定や、血中グロボトリアオシルスフィンゴシン(globotriaosylsphingosine:lyso-Gb3)、尿中Gb3の測定を行います1)。男性の場合は、白血球GLA活性の測定で活性の低下がみられたら確定診断となりますが、念のため、GLAの遺伝子解析を行うこともあります1)

女性では、白血球GLA活性が低下しないこともあります。その場合は、臨床症状や家族歴、血中lyso-Gb3、尿中Gb3の蓄積などを総合的にみて、最終的にはGLAの遺伝子解析で確定診断を行います1)

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図2 ファブリー病診断のためのフローチャート

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図2 ファブリー病診断のためのフローチャート

子どもの診断時期は疾患の説明を十分にした上で両親が判断

お子さんの診断の時期について悩まれるご両親も多くいらっしゃいます。母親がファブリー病の場合、子どもは男児・女児ともに50%の確率で遺伝子変異を受け継ぐ可能性があり、父親がファブリー病の場合、女児に遺伝子変異が受け継がれます(図3)。

お子さんにファブリー病の可能性がある場合、まずは疾患の経過や治療などについて患者さんに十分説明します。その上で、ご両親に診断の時期を決めていただくようにしています。

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図3 ファブリー病の遺伝子変異と遺伝形式

ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版. イーエヌメディックス, 2018, 7.(一部改変)

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図3 ファブリー病の遺伝子変異と遺伝形式

ファブリー病診断治療ハンドブック編集委員会. ファブリー病診断治療ハンドブック 改訂第3版. イーエヌメディックス, 2018, 7.(一部改変)

早期発見のための「新生児スクリーニング」も普及しつつある

現在、ファブリー病を含むライソゾーム病の新生児スクリーニングが全国的に行われるようになっており、当院でも実施しています。新生児のうちに診断できれば、男児の場合は症状が出現する5、6歳、あるいはある程度疾患を理解できる年齢になったら、治療を開始します。女児の場合は症状に個人差があるため経過をみながらになりますが、重篤な合併症を予防するためにも、遅くとも20歳前後に治療を開始することが大切と考えます。

一方、新生児スクリーニングを行ってファブリー病と診断された患者さんは、診断から何十年も経過をみていく必要があるため、治療開始時期の検討や患者さんの心のケアなどを含めたフォローアップ体制を整えることも大切でしょう。

 

心臓病や腎臓病患者さんへのスクリーニングも重要

新生児スクリーニングと同様に、腎不全や心不全の患者さんに対するスクリーニングも重要と考えています。約15年前、腎不全患者さんを対象としたスクリーニングを、世界に先駆けて透析患者さん約1000名を対象に実施し、3人のファブリー病患者さんを発見した経験があります。透析治療を受けている患者さんのなかにはファブリー病の患者さんが潜在している可能性がありますので、現在もスクリーニングは継続的に行っています。

早期診断は重要ですが、診断のための遺伝子検査はどこの医療機関でもできるものではなく、遺伝子検査を行うためには臨床遺伝専門医という資格が必要です。疑わしい症状がある場合や、検査が必要と思われる場合は専門医のいる医療機関に紹介していただければと思います。現在は、スクリーニングのために乾燥ろ紙血を用いてGLA活性を測定できるツールもあります。

 

乾燥ろ紙血を用いた酵素活性測定

ファブリー病が疑われる場合のスクリーニングのために、乾燥ろ紙血を用いてGLA活性を測定することができます。
血液採取後、乾燥ろ紙血(DBS)検体として送付いただくと、 スクリーニング結果を確認することができます。

乾燥ろ紙血による検査キットを取り寄せる乾燥ろ紙血による検査キットを取り寄せる
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製品に関するお問い合わせ

こちらにご連絡いただきますと
弊社担当MRより乾燥ろ紙血による検査キットをお届けすることもできます

くすり相談室|0120-566-587

月曜~金曜 / 9:00~17:30(土日祝日・その他弊社の休業日を除く)


遺伝カウンセリングとは

ファブリー病は遺伝性疾患ですので、患者さんやご家族に対する遺伝カウンセリングを行います。
遺伝カウンセリングを行う一つのタイミングとして、ファブリー病の診断時が挙げられます。
まずは、疾患や検査の内容とそれを行う理由、遺伝子解析などについて詳しく説明をした上で、検査・診断を行うことが大切です。

 

患者さんが抱えるさまざまな問題を支援

診断後は、個人によって異なりますが、症状や疾患の経過、治療法などについての説明と同時に、結婚や出産、子どもへの遺伝などについても説明することになります。
子どもへの影響が大きい疾患ですので、残念ながら結婚の破談や離婚などにつながることもあります。
また、生まれた子どもの診断時期についても、「治療法があるなら考えておきたいので早く診断したい」という方もいれば、「早く診断しないでほしい」という方もいらっしゃいます。
さらに、家族や親戚の「誰に、どこまで伝えるか」についても患者さんそれぞれで考え方や事情が異なります。

このように、ファブリー病の遺伝カウンセリングの内容は多岐にわたり、地域による違いや親戚の多少、人間関係なども含め、さまざまな難問を抱える患者さんやご家族も多くいらっしゃいます。

遺伝カウンセリングは、ファブリー病だけでなくダウン症やがんなど、さまざまな疾患領域で必要とされています。そのような背景もあり、近年では普及が進んでおり認定遺伝カウンセラーも少しずつ増えています。


ファブリー病診療の今後の展望と先生方へメッセージ

私はもともと学生のころからライソゾーム病の研究をしており、35、6年前からファブリー病の研究や診療に携わってきました。日本で初めての酵素補充療法の治験にも携わり、それが現在の治療につながっています。

ただ、治療を行うなかで新たな問題も生じてきますので、酵素に対する抗体について、また酵素治療におけるバイオマーカーについてなど、学問的な研究も続けてきました。現在は、ファブリー病患者由来のiPS細胞を用いて神経細胞や血管細胞を作製し、発症のメカニズムについての研究を行っています。

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衞藤 義勝 先生

今後、新たな治療法が登場する可能性も

ファブリー病の病態は、まだ解明されていないことが多くあります。今後、さらに研究を続け、どのようにして細胞に障害が起こるのか、細胞内で起こるさまざまな問題の機序解明につなげられたらと考えています。

また、ファブリー病では細胞に炎症反応が起こり、最終的には線維化を起こしますが、線維化を起こすと細胞はもう元の状態には戻れません。そのため、まずは炎症を起こさないことが大切であり、そのための治療開発も少しずつ進んでいます。今後、新たな治療法が登場し、治療方針が変わる可能性もあります。

 

早期発見のため、気になる場合は早めに専門医に相談を

適切な時期に治療を開始するためにも、早期診断が重要です。
開業医の先生方にとって、ファブリー病はまだあまり知られていない疾患といえます。おそらく、「おなかが痛い」というだけでファブリー病を疑うことはまずないと思われますし、もっとお子さんに多くみられ、緊急性を要する疾患もたくさんあるでしょう。
ただ、例えば、幼稚園や小学生の男児で手足に強い痛みがあり、熱いお風呂に入れない、汗をかきにくい、夏場になると調子が悪くなるなどの症状がある場合、ファブリー病である可能性があります。
「そういう疾患もある」と頭の片隅に置いていただいて、気になる患者さんがいる場合には早めに専門医にご相談ください。

参考文献
1) 日本先天代謝異常学会; ファブリー病診療ガイドライン 2020, 診断と治療, 2021, 2-9.
2) 小児慢性特定疾病情報センター(https://www.shouman.jp/disease/details/08_06_091/)
(2022年6月21日閲覧)