CMV感染・感染症
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造血幹細胞移植(HSCT)におけるCMV感染・感染症
監修:木村 俊一先生 自治医科大学附属さいたま医療センター 血液科 准教授
CMV感染のリスク因子
CMV再活性化のリスク因子として以下があげられます。リスク因子の有無を確認して、リスクに応じた予防、モニタリング、先制治療介入、フォローアップをすることが必要とされています。
表1. CMV再活性化のリスク因子
CMV感染症の診断
CMV感染症の診断には、侵襲部位あるいは臓器に由来する症候に加えて、侵襲部位あるいは臓器のCMV感染の証明が必要とされています。ただし、CMV網膜炎は特徴的な網膜所見のみでも診断されるため、CMV感染の証明は必須とはされていません。また、病状により組織からの検体採取が困難な状況も多く、その場合には、血液検査(CMV抗原血症検査やPCR法)の結果と臨床所見を併せて総合的に判断せざるを得ないこともあるとされています。
■ CMVの病型診断
CMV感染症には、その侵襲部位や臓器によって、CMV肺炎、CMV胃腸炎、CMV網膜炎、CMV肝炎などの病型があります。また、診断の種類には確定診断(proven disease)と推定診断(probable disease)があり、造血細胞移植ガイドライン ウイルス感染症の予防と治療 サイトメガロウイルス感染症(第5版)(以下、「造血細胞移植ガイドライン」)では、以下のように定義されています。
CMV感染症には、その侵襲部位や臓器によって、CMV肺炎、CMV胃腸炎、CMV網膜炎、CMV肝炎などの病型がある。
1) CMV肺炎
発熱、呼吸困難、乾性咳嗽、低酸素血症、また胸部X線写真やCT検査による胸部異常(間質性)陰影などの肺炎所見と、生検肺組織などの肺由来の検体から病理組織学的あるいは免疫組織学的にCMV感染が証明された場合に確定診断(proven disease)となる。CMV肺炎では、ニューモシスチス・ジロベチ、細菌、あるいは真菌などによる重複感染がしばしば認められる。他の病原体が同時に検出された場合は、その病原体の性質と基礎疾患の特徴を考慮して診断する。
一方、臨床所見に加えて、BAL液からウイルス分離やPCR法によりCMV DNAが証明された場合は、推定診断例(probable disease)となる。推定診断におけるCMV DNAのカットオフ値に関するコンセンサスは、現時点では得られていない。逆に、BAL液でCMV DNAが陰性の場合、CMV肺炎の可能性はほぼ否定することができる。臨床症状を伴わないBAL液からのCMVの検出はCMV肺炎の診断とはならない。
2) CMV胃腸炎
悪心、嘔吐、腹痛、下血等の臨床症状、内視鏡検査による消化管潰瘍、びらん、発赤などの肉眼的粘膜病変に加えて、生検組織を用いた病理学的検査でCMV感染が証明された場合(核内封入体保有細胞の検出や免疫組織陽性など)に確定診断(proven disease)とする。
CMV胃腸炎ではしばしば消化管GVHDが併存するため、CMV胃腸炎の診断には、消化管GVHDの有無についての併記が求められる。
臨床症状および組織からのCMVの検出はみられるものの、内視鏡的に粘膜病変が見られない場合は、推定診断(probable disease)となる。
国内での検討では、CMV胃腸炎発症時のCMV抗原血症検査の陽性率は約30%と報告されており、CMV抗原血症検査でCMV感染が検出されていなくても、CMV胃腸炎は否定できない。臨床所見からCMV胃腸炎を疑う場合には、定量PCR法など他の検査の追加を考慮する。血液検体からのCMVの検出(PCR法や抗原血症検査)や、生検組織からのPCR法によるCMV DNAの検出では診断には不十分であり、この場合は、CMV胃腸炎可能性例(possible disease)に該当し、CMV胃腸炎の確定診断には、消化管病変の免疫組織学的なCMVの証明を要する。
3) CMV肝炎
肝機能異常(AST、ALTの上昇など)と、生検組織を用いて核内封入体保有細胞の検出など組織病理学的なCMV感染の証明、あるいは、免疫組織染色によるCMVの証明に加えて、他のウイルス肝炎が否定された場合に確定診断(proven disease)する。CMV肝炎については、probable diseaseは定義されていない。
4) CMV網膜炎
CMV網膜炎は他の部位の感染症と比べて発症時期が遅い。後天性免疫不全症候群に比して、造血細胞移植後ではCMV網膜炎は相対的に少ないとされるが、視覚異常の訴えがみられた場合には積極的に眼底検査を行う。特に症状を訴えにくい小児患者などでは、CMV感染症のリスクに応じて移植後の定期的な眼底検査を検討する。CMV網膜炎はしばしば無症状でスクリーニングで発見されることが多い。国内からの報告では、CMV網膜炎の発症の中央値は移植後34日目(範囲は21~118)で、累積発症率は移植後6ヵ月で2.5%であった。この報告では、60%の患者は、診断時に無症状であったことから、症状だけでなくCMVモニタリングに基づく積極的な眼科的スクリーニングが、CMV網膜炎の早期診断に必要である。
CMV網膜炎は、眼科専門医の診察で、眼底出血を中心とした特徴的な眼科的網膜所見が認められた場合に確定診断(proven disease)とする。PCR法による前房水や硝子体液からのCMV DNAの検出は、CMV感染の確認に有用である。
5) CMV脳炎・横断性脊髄炎・神経障害
中枢神経症状や、脳炎や横断性脊髄炎の画像所見が認められ、中枢神経組織で、病理組織学的あるいは免疫組織学的にCMVが証明された場合に確定診断(proven disease)とする。中枢神経症状に加えて、MRIなどの画像所見、および、脳脊髄液を用いたPCR法にてCMV感染が証明された場合は推定診断例(probable disease)とする。
6) CMV膀胱炎
移植後出血性膀胱炎の原因としては、アデノウイルス、BKポリオーマウイルスの頻度が高いが、CMVによる出血性膀胱炎も時としてみられる。
7) その他
CMV腎症、CMV膵炎などの病型がある。いずれも、その確定診断には、侵襲臓器に由来する症候に、侵襲臓器でのCMV感染の証明が必要である。
CMV感染・感染症のモニタリングと治療
造血細胞移植ガイドラインでは、下記のCMV感染対策フローチャートが示されています。
CMV感染のモニタリングとは、移植後にCMVウイルス量の増加がないか監視する方法であり、CMV抗原血症検査あるいは定量PCR法で定期的にウイルス量を測定します。モニタリングは週1回の頻度で、少なくとも移植後100日まで実施すべきとされ、抗CMV薬(レテルモビル)による予防投与を実施中であっても必須とされています。副腎皮質ステロイド投与中などの高リスク群の他、レテルモビル予防投与を行っている場合には、終了後に後期のCMV再活性化が起きる可能性があり、より長期のモニタリングが必要とされています。
先制治療では抗ウイルス薬を少なくとも2週間投与し、CMV消失が確認できれば治療を終了しますが、投与2週間後もCMVが検出される場合は投与量を維持投与量に変更して継続します。なお、先制治療終了後にCMVが再び増加することもありますが、その場合は初回先制治療時の有害事象や治療抵抗性なども踏まえたうえで薬剤を検討することが重要です。
同種造血幹細胞移植後のCMV感染対策のフローチャート
一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会, 造血細胞移植ガイドライン ウイルス感染症の予防と治療 サイトメガロウイルス感染症(第5版), p20, 2022.
一般社団法人日本造血・免疫細胞療法学会, 造血細胞移植ガイドライン ウイルス感染症の予防と治療 サイトメガロウイルス感染症(第5版), p20, 2022.
■ CMVモニタリングにおける高リスク群と先制治療開始閾値
造血細胞移植ガイドラインでは、CMVモニタリングにおける高リスク群を以下のように挙げ、該当する場合には先制治療の開始閾値を低く設定することが必要とされています。また、移植後100日以降についてはやや高めの設定が可能であると考えられ、造血細胞移植ガイドラインでは、参考値として、先制治療の開始閾値が以下のように示されています。
表2. CMVモニタリングにおける高リスク群
表3. CMVモニタリングによる先制治療開始閾値
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