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パーキンソン病診療のClinical Question パーキンソン病のモーニングオフを考える

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1 モーニングオフとはどのようなものでしょうか?

パーキンソン病(PD)の患者さんにおいて、L-ドパなどの抗PD薬の効果持続時間が短縮し、薬物濃度の変動とともにPDの症状が変動する現象をウェアリングオフといいます(図1)。抗PD薬の血中濃度がある閾値以上あって薬効が十分である状態はオン、ある閾値以下に低下して薬効が不十分である状態はオフと呼ばれています。このウェアリングオフという現象は、早期PD患者さんに対してL-ドパの投与を開始した時期には発現が認められず、投与開始から数年が経過してから発現するようになるのが一般的な経過です。

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ALC_L-ドパの血中濃度とウェアリングオフ現象の関係
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ALC_L-ドパの血中濃度とウェアリングオフ現象の関係

ウェアリングオフ発現の要因としては、L-ドパの半減期が短いことが挙げられますが、それだけでウェアリングオフが発現するわけではありません。ドパミン神経細胞は、産生したドパミンをある程度の期間保持できるドパミン保持能を有しています。このドパミン保持能がある程度保たれている間は、1日3回のL-ドパ投与でも1日中ドパミンが欠乏しないため、ウェアリングオフは発現しません。しかし、PDが進行して大脳基底核の黒質のドパミン神経細胞シナプス前終末が変性していくと、ドパミン保持能が徐々に低下して、L-ドパ投与後にドパミン神経細胞が十分な量のドパミンを放出できる時間が短くなっていき、ウェアリングオフが発現するようになると考えられています。

このウェアリングオフの中でも、夜間から早朝にかけて発現するオフをモーニングオフと呼んでいます。モーニングオフは、寝ている間に服薬を行うことが難しいため、実臨床での対応が困難な症状です。我々の調査や海外の調査で、PD患者さんの少なくとも半数以上で発現していることが明らかになっており1,2)、Hoehn & Yahr重症度分類別のステージ1の患者さんに限っても約半数で発現が認められています1)。モーニングオフの中には、他の時間帯のオフとは異なり、起床後にL-ドパを服用してもすぐには症状が改善しない症例や、寝返り困難や運動緩慢などの夜間症状を朝まで引きずっている症例も散見されます。また、モーニングオフの訴えがない患者さんの中に、朝の起床時や昼寝の後はL-ドパを服用していない状態でも非常に調子が良い、いわゆるスリープベネフィットが認められる症例が存在しており、このことはモーニングオフが他の時間帯のオフのような単純なものではないことを間接的に示唆しているとも考えられます。これらの知見から、モーニングオフには、前述のL-ドパの薬物動態とドパミン神経細胞のドパミン保持能の低下だけでは説明できないサブタイプが存在する可能性が示唆されています。


2 モーニングオフは患者さんにどのような影響を与えるのですか?

モーニングオフが発現すると、夜間・早朝に寝返りが打てない、朝方トイレに行くことが難しい、身支度に時間がかかるなど、運動症状によるさまざまな生活への影響がみられます。また、非運動症状としては、不安感、気分の落ち込み、抑うつといった精神障害、主にジストニアが原因と考えられる痛みなどの感覚障害、切迫尿意などの自律神経障害がみられます(図2)。

このようなモーニングオフの症状を経験している患者さんでは、経験していない患者さんと比較してQOLが低くなることが分かっています1)。どの重症度の患者さんにおいてもQOLに影響を及ぼしますが、中でも早期の患者さん、特にHoehn & Yahr重症度分類別のステージ1の患者さんでモーニングオフを経験していない患者さんとのQOLの差が大きいことから1)、モーニングオフはPDのごく早期から患者さんのQOLに多大な影響を与えていると言えるでしょう。そのため、早期の患者さんでもモーニングオフが発現していないか、積極的に確認することが重要です。

なお、早期でモーニングオフを経験した患者さんのほうがQOLの低下が大きい理由は、まだよく分かっていません。朝のオフ症状が午前中の生活・仕事にまで影響を与えている可能性があります。また、Hoehn & Yahr重症度分類別のステージ1でモーニングオフの症状を経験するような患者さんでは、ドパミン神経細胞のドパミン保持能の低下が大きい、すなわち、Hoehn & Yahr重症度分類別によるステージングで示される以上に実はドパミン神経細胞の変性が進んでいて、それがモーニングオフの発現、QOLの低下という形で顕在化しているという可能性もあると考えられます。

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ALC_モーニングオフの影響
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ALC_モーニングオフの影響

3 患者さんからモーニングオフの発現を聞き出す問診のポイントは?

昼間のウェアリングオフが発現している患者さんに対しては、どうしてもウェアリングオフとジスキネジアに焦点を当てた問診になってしまいます。ですから、毎回の診察時に、必ず起床時の状態についても詳しく聞くように心掛けています。具体的には、「朝起きたときに、昼間と同じように動けますか?」「朝は1日の中で一番悪い状態ですか? それとも良い状態ですか?」といった質問をして、日中よりも朝の動きが悪いかどうかを確認します。また、「朝、痛みがありますか?」「朝、気分の落ち込みがありますか?」といった質問で、朝の非運動症状についても確認します。そして、もう1つ重要なのが、その日1回目の服薬後の効果の確認です。朝のオフ症状があって、それがL-ドパ服用によって明らかに改善する場合は、最も基本的な、L-ドパの血中濃度低下により発現するタイプのモーニングオフだと確信を持って判断できます。

多くのPD患者さんは、長い病歴の中でPDの諸症状を当然のものとして受容してしまっています。朝の服薬の効果で昼間は動けるのであればそれで十分だと考え、モーニングオフの症状を積極的に訴えない方が多いと感じます。しかし、こちらから朝のオフ症状について問いかけると、「そうなんですよ」とお話しになりますから、やはりこちらから問いかけてみることが重要です。同様の理由で、患者さん本人だけでなく、ご家族や訪問看護師など在宅医療に関わる方々にも患者さんについての情報を求めるようにしています。

 

<出典>

1)Onozawa R et al; J Neurol Sci, 2016, 364,  1-5.

2)Rizos A et al; Parkinsonism Relat Disord, 2014, 20, 1231-1235.

私がPD診療の中でやりがいを感じる瞬間


PD診療は、患者さん、ご家族、医師をはじめとする医療関係者や介護担当者が協力して取り組むことが重要です。しかし、PD患者さんの中には、この病気と向き合って生きていかなければならないということをすぐには受け入れられず、治療に積極的になれない方も少なくありません。そういった患者さんの治療では困難を感じることも多く、さまざまな葛藤を抱えがちです。しかし、諦めずにじっくりと時間をかけて患者さんとの間に信頼関係を構築していくうちに、最終的には患者さんが病気と向き合って生きていくことを受け入れて治療に積極的になり、治療が円滑に進むようになるという変化をしばしば経験してきました。私は、このような時にPD診療にやりがいを感じるとともに、このような患者さんの変化をじっくりと時間をかけて引き出すことがPD治療のコツではないかと考えるのです。PD患者さんの社会的背景はさまざまで、患者さんそれぞれが仕事や家事、生活の中で異なる困りごとを抱えています。患者さんの変化を引き出すための信頼関係の構築には、PDの症状を改善するための治療から一歩踏み込んで、これらの困りごとについても相談に乗るようにすることが重要と考えています。