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クロト社 糸瀬2024/02/28(水) - 15:46 に投稿

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遺伝性血管性浮腫(Hereditary angioedema:HAE)診療ガイドライン改訂2023年版

 

HAE診療ガイドライン改訂2019年版の公開以降、HAEに関する病態解明や治療の進展がみられました。HAEは2種類に分類されます。一つはC1-INH遺伝子異常を認めるHAE-C1-INH(HAE1型/2型と同義)で、もう一つはHAE with normal C1-INH(略称:HAEnCI、HAE3型と同義)です。前版の公開以降、HAEnCIの病因となる新たな遺伝子異常が複数発見されました。治療については、日本でベロトラルスタット(2021年4月承認)、ラナデルマブ(2022年3月承認)、乾燥濃縮人C1-インアクチベーター(2022年9月承認)が「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」を適応として、相次いで承認されました。これらの長期予防薬の導入により治療選択肢が拡充し、HAEの治療戦略が変化しつつあります。このような進展を踏まえ、大幅に更新されたHAE診療ガイドライン改訂2023年版が公開されました。

 

HAE診療ガイドライン改訂2023年版の推奨事項

 


CQ1

血縁に遺伝性血管性浮腫患者がいる場合には、血管性浮腫の症状がなくても診断のための検査を受けるべきか?

推奨文検査を受けることを推奨する
根拠の確かさC
推奨の強さ1
要約
  • 補体C4蛋白質定量、C1-INH活性の測定はHAE診断に有用である。 
  • 家族の検査はHAEの早期診断、早期治療のために行うことが勧められる。
解説
  • HAEの大部分はC1-INH遺伝子異常による常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとる。このC1-INH異常によるHAE(HAE-C1-INH)の診断は、補体C4蛋白質定量によってスクリーニングができるが、非発作時では低下しないこともある。したがって、繰り返す浮腫の家族歴がある場合などHAEを疑う場合には、たとえ補体C4値が正常範囲であってもC1-INH活性を測定し50%以下に低下していれば診断が可能である。なお発作時に補体C4値が正常範囲であればHAE-C1-INHの可能性は低い。 
  • HAE-C1-INHは50%の確率で子孫に遺伝するため、たとえ浮腫症状がない場合でも積極的に診断をおこなうべきである。ただし12か月以下の幼児では、補体C4値はしばしば生理的に低下している。診断のための補体検査は1歳以降に施行する。遺伝子検査であれば年齢にかかわらず診断が可能である。 
  • C1-INH正常のHAE(HAE with normal C1-INH: HAEnCI)も稀ではあるが報告されている。原因遺伝子として6遺伝子(F12、ANGPT1、PLG、KNG1、MYOF、HS3ST6)の異常が報告されているが、原因不明のことが多い。またHAE-C1-INHに比べればHAEnCIの浸透率は低く、また診断に供することのできるバイオマーカーもない。従ってHAEnCIを疑う場合には遺伝子解析を行う。上記6遺伝子のうちF12、ANGPT1、PLGについて保険適用がある。日本補体学会、日本免疫不全・自己炎症学会が相談を受け付けている。 
  • HAEの診断率向上のためには家族の検査(family study)は有力な方法である。

2023年版で初めてHAE患者さんの血縁者の検査に関する推奨事項が加わりました。  
⇒患者さんのご家族にも問診・検査を推奨することを目的としたPR動画を公開しています。  
一般向け腫れ腹痛ナビWEBサイト内「ファミリーテストについて」

 


CQ2

HAEの治療目標はなにか?

推奨文疾病負荷のない日常生活を可能な限り目指すことである
根拠の確かさD
推奨の強さ1
要約
  • 疾病負荷とは、発作のある時も発作のない時も患者が常に直面している肉体的、精神的、社会的な重荷、負担である。 
  • 医師と患者がHAEに関する最新の情報を適宜共有し、お互いに納得したうえで治療方法を決定し、生活を健全化するように努めることが重要である。
解説
  • 発作のある期間は、患者のQOLは著しく低下し疾病負荷も大きい。大澤らによる報告でも、わが国のHAE患者のQOLが低下していることが示された。   
    ベリナート®P静注用500のみが急性発作に承認されていた時代のデータではあるが、1年間で21.1%の患者が1日以上の入院を経験し、28.7%の患者が仕事や学校を休んでいた。また発作がない期間にも患者は疾病負荷にさらされている。次の発作への恐れと不安、治療への不満、教育や仕事のキャリア形成の断念、抑うつ、トリガーを避けるため生活習慣の制限などその内容は多岐にわたる。
  • 2023年8月の時点でHAEの治療法は、1)急性発作に対するオンデマンド療法、2)発作を誘発しうる処置やイベントの前の短期予防、3)長期予防の3つがある。とくに長期予防の進歩は近年著しい。
  • これら3つの治療法を組み合わせて患者を治療するが、画一的な基準は設定しがたい。患者ごとに、年齢や家族構成、社会的、経済的な背景、治療方法への嗜好性、医療機関へのアクセスなど状況は異なるためである。また一人の患者についても経年的に発作の回数や重症度が変化することもある。加えて今後新たなHAE治療薬が開発されてくる可能性もある。すべての患者にこれらの治療選択肢があることを説明し、治療方針を相談、確認することが必要である。ただし、一般的に言えば、発作頻度や重症度が高ければ高いほど、長期予防の良い適応と考えられる。 
  • 患者が自身の発作の状況、QOLを記録することは治療方針の決定に役立つ。血管性浮腫の重症度やQOLを評価するAAS(Angioedema Activity Score)やAE-QoL(Angioedema Quality of Life Questionnaire (AE-QoL) の日本語版での評価が可能である。

2023年版で初めてHAEの治療目標に関する推奨事項が加わりました。
⇒HAEを含む血管性浮腫のQoL評価「AE-QoL」の計算ができます。
AE-QoLビジュアライザー

 


CQ3

HAEの急性発作は早急に治療すべきか?

推奨文HAEの浮腫発作は可能な限り早急に治療することを推奨する
根拠の確かさB
推奨の強さ1
要約
  • 早期治療は、発作の重症度を問わず症状消失までの時間を短縮し、総発作期間も短縮する。 
  • 顔面、口腔、腹部、上気道の発作の治療をできるだけ早期に行うことについて疑問はない。
  • 四肢の発作については生命の危険はないものの腫れのみでなく痛みや機能障害を来たして患者のQOLを障害するため早期治療を考慮する。
解説
  • 輪状紅斑などの前駆症状が浮腫発作に先行することもある。ただし前駆症状の出現が浮腫発作の前に常に出現するわけではないこと、前駆症状が必ず発作を予見できるわけではないことにも注意が必要である。
  • なおHAE発作の臨床経過は予測不能であり、喉頭浮腫による死亡の可能性もあるため、症状の推移には細心の注意を払うことが重要である。


 


CQ4

HAEのすべての発作は治療の対象になるか?

推奨文すべての発作について治療を考慮することを推奨する
根拠の確かさD
推奨の強さ1
要約
  • 顔面、上気道の発作は窒息に至る可能性がある。 
  • 腹部の発作は疼痛を伴い患者を衰弱させる。手足などの末梢性の発作は機能障害をきたす。
  • これらのHAE発作がもたらすすべての影響は治療により最小化することができる。
解説
  • 上気道周辺に生じている発作は、挿管または気道への外科的介入を早期に検討しつつ迅速に対応する。
  • Borkらは、喉頭浮腫の発作は調査した209人の患者のうち108人(51.7%)が一度は経験しており、合計131,110回の発作のうち1,229回(0.9%)であったとしている。
  • 喉頭浮腫は、頻度は稀ではあるが致命的になりうるため特に注意が必要である。


 


CQ5

HAEの急性発作に対する第一選択薬はなにか?

推奨文

乾燥濃縮⼈C1-インアクチベーター製剤*(商品名:ベリナート®P静注⽤500)、ブラジキニンB2受容体アンタゴニスト(⼀般名:イカチバント、商品名フィラジル®)は、

*C1-インアクチベーターはC1-INHの別名

根拠の確かさHAE-C1-INH患者に、推奨される A 
HAEnCI患者に、提案される   D
推奨の強さHAE-C1-INH患者に、推奨される 1 
HAEnCI患者に、提案される   2
要約
  • HAEの急発作時治療には、わが国では2023年8月現在、ベリナート®P静注用500とフィラジル®の2種類の製剤が使用可能である。浮腫の進展を抑え込むためにはできるだけ早い治療薬の投与が必要である。 
  • HAE-C1-INHについては両製剤ともにRCTによって有効性と安全性が証明されている。
  • HAEnCIについてはこれら2剤が有効であったとするオープンラベルの報告はあるが、わが国ではHAEnCIの原因遺伝子がほとんど不明であることから投与は慎重になるべきである。
解説
  • HAE-C1-INHに対するベリナート®P静注用500とフィラジル®の有効性と安全性はRCTやその後の長期継続試験、観察研究などでも明らかにされている。ベリナート®P静注用500、フィラジル®ともわが国では薬事上の成人(15歳以上)に承認されていたが、2022年8月に2歳以上の患者に対してフィラジル®の適応が追加された。 
  • 米国ではほかにカリクレイン阻害剤(一般名:エカランタイド、商品名カルビトール®)が承認されているが、わが国、EUでは未承認である。 
  • HAEnCIは少なくとも6種類の原因遺伝子(F12, ANGPT1, PLG, KNG1, MYOF, HS3ST6)が報告されているが、原因遺伝子が不明である場合が多い。また遺伝子異常が明らかになっている場合ですら、詳細な発症のメカニズムは不明である。 
  • HAEnCIはヘテロな疾患群でありベリナート®P静注用500とフィラジル®の有効性を一概には論じることはできないと思われる。ただしHAE-F12、HAE-PLGに関していえば、ベリナート®P静注用500、フィラジル®が有効であったとする報告は散見される。治療抵抗性の喉頭浮腫発作など窒息の恐れがある場合にはHAEnCIであってもこれら2製剤の投与は許容される。

⇒フィラジル®の製品情報はこちらからご覧いただけます。(フィラジル®製品概要

 


CQ6

HAEの短期予防のための第一選択薬はなにか?

推奨文

乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤*(商品名:ベリナート®P静注用500)は、

*C1-インアクチベーターはC1-INHの別名

根拠の確かさHAE-C1-INH患者に、推奨される B   
HAEnCI患者に、提案される   D
推奨の強さHAE-C1-INH患者に、推奨される 1   
HAEnCI患者に、提案される   2
要約
  • 外科手術による侵襲、抜歯などの歯科的な処置、および機械的刺激(例えば、気管内挿管、気管支鏡検査、または食道・胃・十二指腸内視鏡検査)などでは、処置部位の付近で腫れが生じることがある。これらの処置に伴う腫脹は、通常48時間以内に起こる。わが国では2017年3月にベリナート®P静注用500の予防的投与が承認されている。 
  • HAE-C1-INH患者ではベリナート®P静注用500による前処置による予防が強く推奨される。
  • HAEnCI患者に現時点で推奨できる短期予防はない。ただし侵襲的処置時にはベリナート®P静注用500での治療を考慮してもよい。
解説
  • HAE-C1-INH患者171名の577抜歯の検討では、ベリナート®P静注用500の短期予防を受けていない場合、21.5%で顔面浮腫あるいは喉頭浮腫が生じた。そのリスクはベリナート®P静注用500の500単位の予防投与で16%に、1,000単位の予防投与で7.5%に軽減された。またHAE-C1-INH患者137名における別の研究でも、抜歯を含む外科的処置の際のベリナート®P静注用500の予防投与は発作の回避に有効であった。  
    従ってベリナート®P静注用500による予防は、外科手術による侵襲、抜歯などの歯科的な処置、および機械的刺激(例えば、気管内挿管、気管支鏡検査、または食道・胃・十二指腸内視鏡検査)などに対して推奨される。  
    ベリナート®P静注用500は、処置の開始にできるだけ近い時間に発作予防のために使用すべきである。侵襲を伴う処置前の6時間以内に1,000~1,500単位を投与する。 
  • 一方HAEnCIでは短期予防の効果は体系的に分析されていない。HAEnCIにおいて侵襲を伴う処置の前のベリナート®P静注用500短期予防が効果的かどうかは不明である。現時点では、HAEnCI患者に短期予防が推奨されるべきかは不明である。


 


CQ7

HAEの長期予防のための第一選択薬はなにか?

推奨文

ベロトラルスタット(商品名:オラデオ®)、ラナデルマブ(商品名:   
タクザイロ®)または乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤*(商品名:  
ベリナート®皮下注用2000)は、

*C1-インアクチベーターはC1-INHの別名

根拠の確かさHAE-C1-INH患者に、推奨される A      
HAEnCI患者に、提案される   D
推奨の強さHAE-C1-INH患者に、推奨される 1     
HAEnCI患者に、提案される   2
要約
  • 2023年8月現在、わが国ではオラデオ®、タクザイロ®、ベリナート®皮下注用2000の3製剤が承認されている。 
  • 長期予防の適応については発作の重症度(発作頻度など)、患者のQOLや生活環境、治療環境などに合わせて個別に考えるべきである。
解説
  • オラデオ®は経口の血漿カリクレイン阻害薬で150mg(1カプセル)を1日1回経口投与する。タクザイロ®は血漿カリクレインに対するモノクローナル抗体であり原則1回300mgを2週間隔で皮下注射する。症状が安定している場合には1回300mgを4週間隔で皮下注射することもできる。ベリナート®皮下注用2000は1回体重1kg当たり60国際単位を週2回皮下注射する。国内外で行われた臨床試験においてこれら3製剤は、4週間に1回ないし2回以上の発作のあるHAE-C1-INH患者のみを組み入れており、この患者群には大きな効果が証明されている。しかしながらHAEnCIは臨床試験の対象となっていない。
  • 長期予防については、発作の重症度(発作頻度など)、患者のQOLや生活環境、治療環境などの疾病負荷を患者ごとに個別に勘案して適応を決定する。 
  • 血漿カリクレインは高分子キニノーゲンを切断してブラジキニンを生成させる。オラデオ®、タクザイロ®ともに血漿カリクレイン活性を低下させることによってブラジキニン生成を抑制して浮腫発作を予防する。ベリナート®皮下注用2000は、患者で低下しているC1-INHを補充することによって浮腫発作を予防する。    
    しかしオラデオ®、タクザイロ®、ベリナート®皮下注用2000は発作を完全に消失させるわけではない。従ってブレークスルー発作に対する治療薬(  
    フィラジル®またはベリナート®P静注用500)が投与できる態勢を準備しておくことも必要である。    
    長期予防薬の費用対効果、長期投与した場合の効果と副作用、効果が見られた場合の減量や中止の可能性などについては今後の検証が必要である。    
    副作用としてオラデオ®は下痢、腹痛、肝機能障害、QT延長があり、 
    タクザイロ®、ベリナート®皮下注用2000は注射部位反応などがある。
    オラデオ®、タクザイロ®は12歳以上のHAE患者に承認されているが、ベリナート®皮下注用2000については年齢制限の記載は添付文書ではない。 
  • 米国では2008年にC1-INH製剤(商品名:シンライズ®)が長期予防薬として承認されるまで長い間アンドロゲン製剤が唯一のHAE治療薬であった。小規模のRCTをふくめ多くの前向き非盲検研究、後ろ向き研究があるが、多くの場合有効性が高いことが報告されている。しかしながら、体重増加、生理不順、頭痛、男性化、肝障害などの副作用が患者のQOLを障害するため使用する際には細心の注意が必要である。わが国では未承認である。
  • トラネキサム酸は基本的に長期間の予防投与には推奨されない。有効性に関するデータはほとんどないが、一部の患者では有効であるかもしれない。主に、C1-INH製剤が利用できず、アンドロゲンが禁忌である場合に使用される。使用されるトラネキサム酸の用量は、1日30〜50mg/kg(最大1日6g)の範囲である。投与量の用量範囲についての研究や他の予防薬との比較は行われていない。わが国では未承認である。
  • HAEnCIの長期予防にはRCTがなくエビデンスは乏しい。HAE-F12では、とくにエストロゲンとの関連が認められるため、プロゲスチンによるホルモン療法の有効性が報告されている。トラネキサム酸も有効な場合がある。

※:HAEに対しては本邦未承認   
2019年版の公開後に、オラデオ®、タクザイロ®、ベリナート®皮下注用2000が「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」に関して本邦承認済みとなりました。2023年版では、HAEの長期予防における推奨事項に、これらの3製剤に関する記述が加わりました。   
⇒タクザイロ®の製品情報はこちらからご覧いただけます。(タクザイロ®製品概要   
⇒フィラジル®の製品情報はこちらからご覧いただけます。(フィラジル®製品概要

 


CQ8

妊娠HAE患者における発作の治療薬は何が適切か?

推奨文
  • 妊娠HAE-C1-INH患者の急性発作、短期予防に、乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤*(商品名:ベリナートP®静注用500)が、推奨される
  • 妊娠HAE-C1-INH患者の長期予防に、乾燥濃縮人C1-インアクチベーター製剤*(商品名:ベリナート®皮下注用2000)が、推奨される

*C1-インアクチベーターはC1-INHの別名

根拠の確かさD
推奨の強さ1
要約
  • HAEの急性発作の治療薬、予防治療薬とも妊婦は臨床試験からは除外されており、安全性のエビデンスは十分ではない。しかしながらC1-INH製剤は最も長い臨床での使用経験があり妊婦での安全性を支持する多数の症例集積がある。 
  • 妊娠HAE-C1-INH患者では、急性発作、短期予防、長期予防いずれについてもC1-INH製剤が推奨される。
解説
  • 承認された薬剤であってもその大部分は妊婦へのリスクが不明である。これは予期せぬ副作用から保護するという倫理的理由によって、被験者である妊婦と胎児が臨床試験の対象から長らく除外されてきたことに起因する。 
  • 妊娠HAE患者もその例外ではない。急性発作の治療薬、予防治療薬とも臨床試験からは除外されており、疾患の稀少性と相まって少数の観察研究や症例報告しかない。したがってわが国で承認されているHAE治療薬はすべて、添付文書上は妊婦に対して「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されており、安全性についての言及はない。 
  • ただしHAEの治療薬の中でも、C1-INH製剤は最も長い臨床での使用経験があり妊婦での安全性を支持する多数の症例集積がある。たとえばBrooksらの系統的文献レビューでは、91患者(HAE-C1-INHが82名、HAEnCIが9名)の136妊娠に1562回のC1-INH静注製剤がオンデマンド治療、短期予防、あるいは長期予防目的で投与されたが、母体、出生児の安全性に問題は認められなかった。 
  • またCOMPACT試験の非盲検長期投与試験では、長期予防目的でCI-INH皮下注射製剤を投与されていた患者のうち4名に試験中に妊娠が判明した。妊娠判明後は投与中止し、全例健康な児を出生している。少数例ではあるが、C1-INH製剤の妊娠成立の直前、直後についての安全性が示唆される。
  • C1-INH製剤は人由来であり低下したC1-INH活性を補うため、妊娠HAE-C1-INH患者において理論的には投与は問題がないと考えられる。妊娠したHAEnCIに対するC1-INH製剤投与は報告例が少ないうえに理論的にも疑問があり慎重であるべきである。
  • フィラジル®については少数の症例報告を認めるのみで、オラデオ®、タクザイロ®については報告を認めない。これら薬剤の妊娠HAE患者への投与は現時点では推奨しない。
  • トラネキサム酸は安全性では問題が指摘されていないが、効果はC1-INH製剤に劣るため長期予防はC1-INH製剤が使用できない場合に限られる。 
    蛋白同化ホルモンの妊婦への投与は禁忌である。 
    臨床試験からの妊婦の除外はかえって妊婦への不利益となることが近年問題視され、臨床試験への参加の必要性が議論されてきている。さらなる知見の蓄積が望まれる。

※:HAEに対しては本邦未承認 
2023年版で初めて妊娠HAE患者に関する推奨事項が加わりました。 
⇒タクザイロ®の製品情報はこちらからご覧いただけます。(タクザイロ®製品概要 
⇒フィラジル®の製品情報はこちらからご覧いただけます。(フィラジル®製品概要

 


本ガイドラインにおけるエビデンスレベルと推奨の強さ

〇エビデンスレベル
A(強) :効果の推定値に強く確信がある
B(中) :効果の推定値に中等度の確信がある
C(弱) :効果の推定値に対する確信は限定的である
D(とても弱い) :効果の推定値がほとんど確信できない

〇推奨の強さ
推奨の強さ「1」 :強く推奨する
推奨の強さ「2」 :弱く推奨する(=提案する、考慮する)
推奨の強さ「なし」 :明確な推奨ができない

 


国際ガイドライン

World Allergy Organization(WAO、世界アレルギー機構)およびThe European Academy of Allergy and Clinical Immunology(EAACI、欧州アレルギー・臨床免疫学会)が共同で作成したWAO/EAACI国際ガイドライン2021年版の記事もご参照ください。 
⇒詳細はこちら