HAEの検査
監修:広島市立広島市民病院 病院長 秀 道広先生
ここでは、HAEが疑われる症候を持った症例について、
HAEの診断と病型分類に必要な検査を解説します。
HAEを疑う症候
遺伝性血管性浮腫(HAE)の発症から診断までの期間は、大澤らのわが国の調査でも平均で13.8年と非常に長く、いまだに認知度は低いのが現状です1)。日本補体学会HAEガイドライン(改訂2014年版)では、以下の症候がHAEを疑う症候としてあげられています2)。疾患を知っていればHAEの診断は比較的容易です。下記のような症状のある患者さんに対してはHAEを疑いましょう。
HAEを疑う症候
- 皮下浮腫、粘膜下浮腫(痒みを伴わない、あらゆる部位)
- 消化器症状(腹痛、吐き気、嘔吐、下痢)
- 喉頭浮腫
(3歳以下では稀、喉頭浮腫を生じたにもかかわらず適切に治療をされない場合の致死率は30%) - 発作は精神的ストレス、外傷や抜歯、過労などの肉体的ストレス、妊娠、生理、薬物などで誘発される。
- 発作は通常24時間でピークとなり72時間でおさまるが、それ以上続くこともある。
- 家族歴がある。
- 発症は10〜20歳台が多いが、あらゆる年齢で発症しうる。
HAEの診断アルゴリズム
HAEの診断、及びHAEの病型を確定するためには、補体検査が有効です。
WAOガイドライン3)や日本補体学会HAEガイドライン(改訂2014年版)では、以下のような診断アルゴリズムが示されています(図)。
WAOガイドライン 推奨文1
Ⅰ型/Ⅱ型HAEの疑いがある全患者(即ち、原因不明の再発性血管性浮腫がある患者)は、血液中のC4、C1-INH濃度及びC1-INH活性を定量し、これらの検査で異常に低値である場合は、再検査を行って診断を確定するべきである(エビデンスグレード:D、推奨度:強い)
図 HAE診療のためのWAOガイドライン:Ⅰ型/Ⅱ型HAEの診断アルゴリズム
HAEの検査法
HAEの診断と病型分類に必要な検査は以下のとおりです。表で示すように、Ⅰ型/Ⅱ型HAEではC4値及びC1-INH活性は低値となりますので、これらの検査によりC1-INHが原因となる血管性浮腫(HAE及び後天性血管性浮腫)のスクリーニングが可能です。病型分類や鑑別のためにはさらなる検査が必要になります。
表 血管性浮腫の鑑別のための補体検査
①スクリーニング
- HAEを疑った場合には、まずC4値(保険適用)を測定します。
→C1-INHにより制御される補体経路(古典経路)の下流に位置するC4値は、発作時にほとんどすべてのHAE症例で基準値以下となり、非発作時でも98%の症例で基準値以下となるため、C4測定は有効な目安になります。 - 次に、C1-INH活性(保険適用)を測定します。
→Ⅰ型/Ⅱ型HAEでは低値となります。ただし、C1-INH活性は、HAE以外にも後天性血管性浮腫でも同様に低下しているため鑑別が必要となります。
②さらに詳しく病型を検討する場合
- C1-INH定量(保険適用外)を行います。
→低値であればⅠ型HAE、正常値ならばⅡ型HAEと診断されます。
③家族歴がない場合、後天性血管性浮腫との鑑別が必要
- C1q(保険適用外)を測定します。
→低値であれば後天性とされていますが、HAEでもC1qが低値を示す場合があるので、確定診断のためには遺伝子解析が必要となります。
④Ⅲ型HAEを疑う場合
- 臨床的にHAEが疑われるもC1-INH活性が正常値の場合、SERPING1及び第XII因子遺伝子のシークエンシングが行われることがあります。
⑤HAEの診断がついた場合
- 1歳以上の患者さんのご家族はすべてHAEかどうかについて診断を受けるべきです。
喉頭浮腫の致死率は高いため、早期に診断し発作に備えることが重要です。
画像検査
腹痛、悪心、嘔吐、下痢などを示すHAE症例では、腹部超音波検査などを行い、腸管の浮腫を確認します。
遺伝子検査
C1-INHの遺伝子検査は、自施設で実施できない場合は一般社団法人日本補体学会ホームページ(http://square.umin.ac.jp/compl/index.html)から依頼が可能です。解析には、通常の方法で採血された(EDTA-2Na採血)10mLの血液を用います。採血した血液からDNAを抽出し、PCR増幅、電気泳動等にて解析を行います。
1)Ohsawa I et al: Ann Allergy Asthma Immunol 2015; 114: 492-498
2)一般社団法人日本補体学会HAEガイドライン 改訂2014年版 補体2014; 51(2): 24-30
(http://square.umin.ac.jp/compl/HAE/HAEGuideline2014.html)
3)Maurer M, et al. Allergy. 2018; 73(8): 1575-1596.