医療分野におけるリアルワールドデータ(RWD)とは? - RWDの定義/種類 -
リアルワールドデータ(RWD)とは、病院やクリニックなどでの日常診療から得られる患者データの総称です。この記事では、RWDとは?という疑問にお応えし、RWDの定義や種類を分かりやすく解説しています。
リアルワールドデータ(RWD)の定義
リアルワールドデータ(RWD)とは何ですか?
リアルワールドデータ(Real World Data:RWD)とは、病院やクリニックなどでの日常診療から得られる患者データの総称です1)。RWDを利用した臨床研究により、実臨床を反映したリアルワールドエビデンス(Real World Evidence:RWE)が得られます2)。 RWDはランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)のような実験的な環境ではなく、まさに現実の世界を反映したデータです1)。
RWDを活用した臨床研究
リアルワールドデータ(RWD)の種類
リアルワールドデータ(RWD)にはどのようなデータが含まれますか?
RWDには、レセプトデータ、診断群分類包括評価(Diagnosis Procedure Combination:DPC)データ、電子カルテの診療情報、患者レジストリーデータ、健診データのほか、最近ではウェアラブルデバイスから得られるデータなどが含まれます。近年、IT技術の進歩に伴い様々なデータベースが整備されており、RWDは主に①保険データベース 、②電子カルテ由来診療情報データベース、③患者レジストリーの3つに分類されます 1,2)。
RWDの種類
保険データベースを活用したリアルワールドデータ(RWD)とは何ですか? - NDB/DPCデータ/JMDC Claims Database®/Cross Fact® -
「保険データベース」とは、レセプトデータやDPCデータなどの公的医療保険データを集積したデータベースです。診療報酬請求に用いられる情報が匿名化され、研究目的に二次利用できるように集積されており、疾患の種類を問わず、全国の医療機関の膨大なデータが利用できる点が特徴です1)。
代表的な保険データベースとしては、厚生労働省が提供するレセプト情報・特定健診等情報データベース(National Database:NDB)やDPCデータ、民間企業が提供するJMDC Claims Database®やCross Fact®などが挙げられます。NDBは日本全国で実施された保険診療のほぼすべてが網羅されたデータベースであり母集団代表性に優れていますが、現状では個票データの提供対象が限られています。 一方、JMDC Claims Database®やCross Fact®は、民間企業でも利用可能な商用のデータベースであり、複数の健康保険組合等におけるレセプトデータ・健診データが収集・匿名化され、構築されています1)。
代表的な保険データベース1,3-5)
厚生労働省
民間企業
電子カルテ由来診療情報データベースを活用したリアルワールドデータ(RWD)とは、何ですか?
「電子カルテ由来診療情報データベース」とは、公的医療保険データに加えて、電子カルテ(Electronic Medical Records:EMR)などから収集したバイタルサイン情報、検査データ等を統合したデータベースです。全国規模の保険データベースよりも規模は小さいものの、多施設から集積されたデータを活用することにより、研究の対象集団・曝露要因・交絡要因・アウトカムなどをより正確に定義できることが特徴です1)。
代表的なデータベースには、医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)が運用する医療情報データベース(Medical Information Database NETwork:MID-NET )や国立病院機構データベースがあるほか、病院団体や民間企業も独自にデータベースを構築しています1,2)。
代表的な電子カルテ由来診療情報データベース1,6-9)
官主導
民間主導
患者レジストリーとは何ですか?
「患者レジストリー」とは、特定の疾患を有する患者の詳細なデータを多施設から特定の目的のために収集・登録するシステムの総称であり、「患者登録」、「症例登録」ともよばれます。特定の疾患の罹患率や有病率の調査、疾患の経過や予後の把握を主な目的としています1)。
事前に規定された入力フォーマットを用いて、各施設の医師にデータ入力してもらうため、入力者の負担が大きく、また入力データの品質管理が必要になることが多いです1) 。
データを収集する主体は学会をはじめとする研究団体であることが多く、薬剤の市販後調査(Post Marketing Surveillance:PMS)も広い意味での患者レジストリーに該当します。 代表的な患者レジストリーとして、全国がん登録、 National Clinical Database (NCD)、日本心臓血管外科手術データベース(Japan Cardiovascular Surgery Database:JCVSD)が挙げられます1)。
代表的な患者レジストリー1,10-13)
健康診断データを活用したリアルワールドデータ(RWD)とは何ですか?
NDB、JMDC Claims Database®、Cross Fact®などの保険データベースでは、レセプトデータのほかに健康診断データも集積されています。例えば、NDBの特定健診・特定保健指導情報には、40歳以上75歳未満の被保険者および被扶養者を対象とした、いわゆる「メタボ健診」の検査データや問診データ、保健指導に関する情報が含まれます1)。
ウェアラブルデバイスを活用したリアルワールドデータ(RWD)とは何ですか?
ウェアラブルデバイスとは、身体の一部に装着したまま出歩くことができるコンピュータ端末であり、利用者の行動記録や健康管理のために使われるデバイスです14)。血圧、心拍数、体温、運動量、血中酸素飽和度など多様な健康データの収集が可能とされています15)。
どのリアルワールドデータ(RWD)のデータベースを活用できますか?
RWDのデータベースの管理はデータベースの管理者ごとに異なり、活用には使用者や使用目的に一定の条件を課すデータベースもあるため、個別に条件の確認が必要です。例えば、厚生労働省が提供するNDBは、現状では個票データの提供対象が大学などに所属する研究者や行政機関に限られています。ただし、あらかじめ定式化された基礎的な集計表は一般公開されており、厚生労働省のホームページから誰でも閲覧できます。PMDAの運用するMID-NETのデータは医薬品等の安全対策をはじめとする公益性の高い調査・研究に限り、行政のみならず、アカデミアや製薬企業にも有償で提供されています。また、JMDC Claims Database®やCross Fact®は、民間企業でも利用可能です1)。
【参考文献】
1)康永秀生,他. 超入門!スラスラわかる リアルワールドデータで臨床研究(第1版). 金芳堂. 2019.
2)康永秀生. 医学のあゆみ. 2023; 284(8): 564-567.
3)山名隼人. 医学のあゆみ. 2023; 284(8): 580-584.
4)株式会社JMDC. JMDC Claims Database.
https://www.jmdc.co.jp/jmdc-claims-database/(2024年12月11日閲覧)
5)株式会社インテージリアルワールド. 統合医療データベース Cross Fact.
https://www.intage-realworld.co.jp/service/cross_fact/database_research.html(2024年12月11日閲覧)
6)独立行政法人 医薬品医療機器総合機構. MID-NET(医療情報データベース).
https://www.pmda.go.jp/safety/mid-net/0001.html(2024年12月11日閲覧)
7)独立行政法人 国立病院機構. 国立病院機構の診療情報データベースについて.
https://www.pmda.go.jp/files/000264621.pdf (2024年12月11日閲覧)
8)一般社団法人 健康・医療・教育情報評価推進機構. HCEIのデータベース概要.
https://www.hcei.or.jp/page/database(2024年12月11日閲覧)
9)徳洲会インフォメーションシステム株式会社. 徳洲会ビッグデータ.
https://www.tokushukai-is.com/service/tmd.php(2024年12月11日閲覧)
10)国立研究開発法人 国立がん研究センター. 最新がん統計. https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html(2024年12月11日閲覧)
11)一般社団法人National Clinical Database. 代表理事ごあいさつ.
https://www.ncd.or.jp/about/(2024年12月11日閲覧)
12)日本心臓血管外科手術データベース機構 JCVSD. 専門医申請との連携. http://jcvsd.umin.jp/index.html#anc_specialist(2024年12月11日閲覧)
13)日本心臓血管外科手術データベース機構 JCVSD. 【2.2. JCVSD参加施設一覧】.
http://jcvsd.umin.jp/shisetsu.pdf(2024年12月11日閲覧)
14)医薬産業政策研究所. 政策研ニュース No.63 2021年7月 Points of View 医薬品開発におけるウェアラブルデバイスの活用状況.
https://www.jpma.or.jp/opir/news/063/05.html(2024年12月11日閲覧)
15)日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 臨床評価部会. リアルワールドデータを利活用したヘルスケアと医薬品開発の将来へのロードマップ.
https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/lofurc0000005itt-att/bd_rwd_202105-1.pdf (2024年12月11日閲覧)