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クロト社 糸瀬2024/05/23(木) - 17:19 に投稿

拡大新生児マススクリーニング検査(PIDスクリーニング検査)について

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監修:防衛医科大学校  小児科学 教授
今井 耕輔先生

原発性免疫不全症(PID)新生児マススクリーニング検査(NBS)について


拡大新生児マススクリーニング検査とは

新生児マススクリーニング(NBS;Newborn screening)検査は、診断が遅れると命に関わったり、重度障害を残したりする可能性のある希少疾患について、早期診断・早期治療につなげるための検査です1) 
公費により実施されるNBS検査では先天性代謝異常症及び先天性内分泌疾患のうち20疾患が対象となっていますが、そのほかにも早期診断が重要な希少疾患が存在しており、更なる検査項目の拡充が検討されています。現在、従来のNBS検査に原発性免疫不全症(PID)や脊髄性筋委縮症(SMA;Spinal muscular atrophy)、ライソゾーム病(LSD;Lysosomal storage disease)などいくつかの疾患を加えた「拡大NBS検査」の実施が一部地域で進められています(図1)。

図1

監修:防衛医科大学校 小児科学 教授 今井 耕輔 先生

拡大NBS検査の対象疾患のうち、PIDは、易感染症を認め、自己免疫疾患や悪性腫瘍、アレルギー性疾患などを合併することもある疾患です。診断の遅れが致命的な経過につながる場合もあることから、早期診断、早期治療介入が極めて重要とされています2)

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PIDにおけるNBS検査の対象疾患

PIDにおいてNBS検査の対象疾患となっているのはT細胞が欠損する重症複合免疫不全症(SCID;Severe combined immunodeficiency)及びB細胞が欠損するB細胞欠損症(BCD;B cell deficiency)です(図22)。 

図2

監修:防衛医科大学校 小児科学 教授 今井 耕輔 先生

特にSCIDはPIDの中で最も重篤であり、1歳までに根治的治療である造血細胞移植を行わなければ致死的となります。また、これらの疾患は、T細胞受容体遺伝子再構成断片(TREC;T-cell receptor excision circle)、Igκ鎖遺伝子再構成断片(KREC;Kappa-deleting recombination excision circle)の定量PCR法によりスクリーニングが可能です(図3)。

図3

監修:防衛医科大学校 小児科学 教授 今井 耕輔 先生

BCGワクチンやロタウイルスワクチンなどの生ワクチンの接種により、重篤な副反応を生じる場合があるため、予防接種を受ける前に診断を行うことが重要です。

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PIDにおけるNBS検査の現状

日本においてSCID及びBCDの検査はNBS検査時に追加可能な任意の有償検査となっています(図4)。ただ、一部の自治体では公費で検査可能となっており、令和6年度にはこども家庭庁の実証事業の一環でSCID及びSMAを対象として、公費での検査ができる自治体が拡大する予定です。これを踏まえ今後の対象疾患の拡充と全国展開を目指すこととなっています4)。 

画像(PC)
画像(SP)

監修:防衛医科大学校 小児科学 教授 今井 耕輔 先生

また、日本では47都道府県中、46都道府県でPIDスクリーニング検査を受けることができます(図55)。全国の新生児が迅速に検査・診断・治療を受けられるように、日本免疫不全・自己炎症学会(JSIAD)ではPID専門医及び遺伝専門医、遺伝カウンセリングの対応体制の整った連携施設を認定しています6)

画像(PC)
画像(SP)
監修:防衛医科大学校 小児科学 教授 今井 耕輔 先生よりご提供
(2024年8月9日時点)

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PIDにおけるNBS検査の課題

拡大NBS検査は現時点では任意の有償検査であり、検査対象疾患も地域によって異なることが課題の一つとなっています。2023年12月、こども家庭庁が一部の自治体において、SCID及びSMAの2つの疾患を公費でマススクリーニングを実施し、今後全国的に公費で行われるNBS検査の対象疾患に加えることを目指して、検証を進めていく方針を固めました。
PIDに対するNBS検査を受けたい人なら誰でも受けられるような体制を全国に普及していくことが求められています。また、SCID、BCD以外にもPID及び自己炎症性疾患(AID;Autoinflammatory diseases)の中にはNBS検査の対象となる治療可能な疾患が多数存在します。今後はそうした疾患に対するNBS検査法の開発・導入・普及が望まれています。
前述のSCID及びSMAのように拡大NBS検査の有用性に関するエビデンスを蓄積することが重要です。また、新生児と関わる医療関係者の皆さまと連携し、公的事業化に向けて行政に働きかけていく必要があります。

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新生児と関わる医療関係者の皆さまへ

PIDの原因遺伝子は多種多様であることから、病態の解明や治療法の確立には、複数の研究機関の連携による研究の拡大が必要とされます。そこで、本邦では、JSIADによりPIDJ事業が進められており、一般医からのPID疑い例を把握することや、遺伝子診断が可能な連携施設の認定を行っています6)。連携施設においてPIDと診断された場合、PIDJ2(Primary Immunodeficiency Database in Japan ver.2)へ登録を行い、その臨床情報、遺伝子検査の情報、診療情報などを解析することで病態や治療法を開発し、遺伝学的安定性の調査に活用していく取り組みを行っています6)
今後もこうした疾患に対するNBS検査の研究と導入、普及が望まれます。

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参考文献

  1. PID新生児スクリーニングコンソーシアム:PID新生児スクリーニングとは?
    (https://pidj-nbs.jp/screening.html)2024年8月1日時点
  2. 今井 耕輔: 日本臨牀. 2020; 78(増刊号7): 35-42.
  3. Miyamoto S, et al.: J Clin Immunol. 2021; 41(8): 1865-1877.
  4. こども家庭庁:令和6年度母子保健対策関係予算案の概要
    (https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/ff38becb-bbd1-41f3-a95e-3a22ddac09d8/9f35fab5/20231225_policies_boshihoken_137.pdf)2024年8月1日時点
  5. 一般社団法人 日本マススクリーニング学会:拡大スクリーニングの実施状況
    (https://www.jsms.gr.jp/download/Exp_Screening_240131.pdf)2024年8月1日時点
  6. 一般社団法人 日本免疫不全・自己炎症学会:PIDJ事業(https://jsiad.org/pidj/)2024年8月1日時点