神経伝導検査の実際 脱髄と伝導遅延


神経伝導検査の基本

神経伝導検査は、最末端筋を支配する神経線維の機能から、全身の末梢神経機能を推察する検査です。
運動神経伝導検査の評価には運動神経伝導速度や遠位潜時、複合筋活動電位(CMAP)の波形などが用いられます。遠位潜時とは、末梢神経の遠位部を刺激してCMAPが立ち上がるまでの時間を指します。遠位潜時の延長は神経末梢部の脱髄を疑う所見です。この遠位潜時延長と遠位筋障害を結び付けてしまうのは誤解です。神経終末は近位筋にもありますので注意してください。
また、「伝導遅延(≒脱髄)」と「筋力低下」は別個に考える必要があります。末梢神経起源の筋力低下には伝導ブロックや軸索変性などの病態を必要とします。例えば慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy)は、脱髄と伝導ブロックの両方が起こり、それに加えて軸索変性が起こる疾患です。一方、シャルコー・マリー・トゥース病 1A型(CMT1A)の患者が筋力低下を訴えて受診した場合、普通は脱髄に軸索変性が加わった状態です。

神経伝導検査は、最末端筋を支配する神経線維の機能から、全身の末梢神経機能を推察する検査です。
運動神経伝導検査の評価には運動神経伝導速度や遠位潜時、複合筋活動電位(CMAP)の波形などが用いられます。遠位潜時とは、末梢神経の遠位部を刺激してCMAPが立ち上がるまでの時間を指します。遠位潜時の延長は神経末梢部の脱髄を疑う所見です。この遠位潜時延長と遠位筋障害を結び付けてしまうのは誤解です。神経終末は近位筋にもありますので注意してください。
また、「伝導遅延(≒脱髄)」と「筋力低下」は別個に考える必要があります。末梢神経起源の筋力低下には伝導ブロックや軸索変性などの病態を必要とします。例えば慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyradiculoneuropathy)は、脱髄と伝導ブロックの両方が起こり、それに加えて軸索変性が起こる疾患です。一方、シャルコー・マリー・トゥース病 1A型(CMT1A)の患者が筋力低下を訴えて受診した場合、普通は脱髄に軸索変性が加わった状態です。
脱髄と伝導遅延
神経伝導検査では、脱髄がどこにあるかを考えることが重要です。ここでは4つのパターンについて示します。

1つ目はAIDP病初期です。点線は正常な波形、実線は患者の波形を示しています。一般に病初期のAIDP患者では遠位潜時延長、CMAP持続時間延長がみられます。正常波形と患者波形は①②③で遅れていくことはなく、手首から腋窩まではほぼ正常な速さで伝導しているということが分かります。すなわち、AIDP病初期は手首より先に脱髄があるということが示唆されます。

1つ目はAIDP病初期です。点線は正常な波形、実線は患者の波形を示しています。一般に病初期のAIDP患者では遠位潜時延長、CMAP持続時間延長がみられます。正常波形と患者波形は①②③で遅れていくことはなく、手首から腋窩まではほぼ正常な速さで伝導しているということが分かります。すなわち、AIDP病初期は手首より先に脱髄があるということが示唆されます。

2つ目はTypical CIDPです。AIDPのように遠位潜時延長、CMAP持続時間延長がみられます。しかし、正常な波形と患者の波形の潜時が、①と②で大きく変化します。②以降は伝導遅延も波形変化もなく、肘下部から腋窩までは正常伝導だということがわかります。このTypical CIDP患者においては神経終末から前腕にかけて脱髄があると考えられます。

2つ目はTypical CIDPです。AIDPのように遠位潜時延長、CMAP持続時間延長がみられます。しかし、正常な波形と患者の波形の潜時が、①と②で大きく変化します。②以降は伝導遅延も波形変化もなく、肘下部から腋窩までは正常伝導だということがわかります。このTypical CIDP患者においては神経終末から前腕にかけて脱髄があると考えられます。

3つ目はMultifocal CIDP(MADSAM)です。手首から肘下で大きくCMAPの波形が変化しており、前腕部で伝導ブロックが起きていることがわかります。伝導ブロックが起きている場合、小指外転筋の筋力が低下しているはずです。

3つ目はMultifocal CIDP(MADSAM)です。手首から肘下で大きくCMAPの波形が変化しており、前腕部で伝導ブロックが起きていることがわかります。伝導ブロックが起きている場合、小指外転筋の筋力が低下しているはずです。

4つ目はCMT1Aです。遠位潜時は正常のおよそ3倍で、腋窩部までの伝導速度は一様に3分の1と均一な伝導速度低下がみられます。全長にわたって波形変化もありません。こうした所見をユニフォームスローイングといい、CIDPではめったに起こりません。
このように、伝導遅延は脱髄を示唆する所見であると言えます。また、脱髄がどこにあるのか、それによって伝導ブロックが起きているかどうかを考えることが重要であり、特に脱髄の分布が偏っているときはCIDPを意識する必要があります。

4つ目はCMT1Aです。遠位潜時は正常のおよそ3倍で、腋窩部までの伝導速度は一様に3分の1と均一な伝導速度低下がみられます。全長にわたって波形変化もありません。こうした所見をユニフォームスローイングといい、CIDPではめったに起こりません。
このように、伝導遅延は脱髄を示唆する所見であると言えます。また、脱髄がどこにあるのか、それによって伝導ブロックが起きているかどうかを考えることが重要であり、特に脱髄の分布が偏っているときはCIDPを意識する必要があります。
神経伝導検査の実際
実際の神経伝導検査の様子やポイントについて、動画とともにご紹介します。
1つ目の動画は、健常人の正中神経運動神経伝導検査です。

まず短母指外転筋を確認し、この筋腹に電極を置きます。短母指外転筋は母指の掌側外転に関与しています。動画では正中神経刺激による外転と尺骨神経刺激による内転を交互にみせているので、ぜひご覧になって見比べてみてください。
肘より上で正中神経を刺激すると、正常であれば前腕部の回内が必ず起きます。腋窩まできれいな波形が3つ並ぶのが正常ですが、ここでわざと尺骨神経を刺激してみると初期相陽性が陽性に振れると小さい波形が出て、伝導ブロックに類似した所見となります。短母指外転筋の筋力が正常であるのに伝導ブロック所見がみられる場合は、誤った神経を刺激していないか確認が必要です。とくに腋窩部はcurrent spreadingといって隣の神経を刺激してしまうことがあるので、当て分けに注意が必要です。時に不可能なこともあります。

まず短母指外転筋を確認し、この筋腹に電極を置きます。短母指外転筋は母指の掌側外転に関与しています。動画では正中神経刺激による外転と尺骨神経刺激による内転を交互にみせているので、ぜひご覧になって見比べてみてください。
肘より上で正中神経を刺激すると、正常であれば前腕部の回内が必ず起きます。腋窩まできれいな波形が3つ並ぶのが正常ですが、ここでわざと尺骨神経を刺激してみると初期相陽性が陽性に振れると小さい波形が出て、伝導ブロックに類似した所見となります。短母指外転筋の筋力が正常であるのに伝導ブロック所見がみられる場合は、誤った神経を刺激していないか確認が必要です。とくに腋窩部はcurrent spreadingといって隣の神経を刺激してしまうことがあるので、当て分けに注意が必要です。時に不可能なこともあります。
2つ目の動画は脛骨神経運動神経伝導検査です。

足の親指の外転はできる人とできない人がいるので、母趾外転筋は筋力を確認することが難しい筋です。内果後方で脛骨神経を刺激すると母趾外転筋の収縮がみられます。
次に、膝窩の中央部で電気刺激をすると足首が底屈するので、脛骨神経が刺激されていることが分かります。膝窩部では脛骨神経のおよそ3cm外側に腓骨神経が走行しています。腓骨神経が刺激されると足関節の背屈が起こります。動画でも、刺激電極を3cm外側に動かすことで、足の動きが逆転する様子がみられます。腓骨神経を刺激しても、母趾外転筋上に置いた電極から小さな波形が得られ、伝導ブロック様になります。ここで伝導ブロック所見がみられた場合、本当に伝導ブロックがあるのか、間違った神経を刺激しているのかが問題となります。筋力が確認できれば判断できるのですが、脛骨神経では筋力が正常かどうかを確かめることが難しいということを知っておいてください。また、脛骨神経は生理的な分散と生理的な振幅低下が大きい神経なので、『EAN/PNS* ガイドライン』2021年版では脛骨神経の伝導ブロックは採用しないことになっています。
*European Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society

足の親指の外転はできる人とできない人がいるので、母趾外転筋は筋力を確認することが難しい筋です。内果後方で脛骨神経を刺激すると母趾外転筋の収縮がみられます。
次に、膝窩の中央部で電気刺激をすると足首が底屈するので、脛骨神経が刺激されていることが分かります。膝窩部では脛骨神経のおよそ3cm外側に腓骨神経が走行しています。腓骨神経が刺激されると足関節の背屈が起こります。動画でも、刺激電極を3cm外側に動かすことで、足の動きが逆転する様子がみられます。腓骨神経を刺激しても、母趾外転筋上に置いた電極から小さな波形が得られ、伝導ブロック様になります。ここで伝導ブロック所見がみられた場合、本当に伝導ブロックがあるのか、間違った神経を刺激しているのかが問題となります。筋力が確認できれば判断できるのですが、脛骨神経では筋力が正常かどうかを確かめることが難しいということを知っておいてください。また、脛骨神経は生理的な分散と生理的な振幅低下が大きい神経なので、『EAN/PNS* ガイドライン』2021年版では脛骨神経の伝導ブロックは採用しないことになっています。
*European Academy of Neurology/Peripheral Nerve Society
神経伝導検査施行・判読時の注意点

神経伝導検査では被検筋の筋力を参考にすると思考が広がります。ただし、下肢の被検筋は筋力評価が難しいので注意が必要です。
また、皮膚温低下や刺激不足は脱髄の過大評価につながります。とくに下肢では、筋力評価ができない上にこれらすべてが揃ってしまうことが多いため「下肢だけ脱髄」という所見は要注意となります。

神経伝導検査では被検筋の筋力を参考にすると思考が広がります。ただし、下肢の被検筋は筋力評価が難しいので注意が必要です。
また、皮膚温低下や刺激不足は脱髄の過大評価につながります。とくに下肢では、筋力評価ができない上にこれらすべてが揃ってしまうことが多いため「下肢だけ脱髄」という所見は要注意となります。
まとめ
- 「伝導遅延」と「筋力低下」の原因は別個に考える必要があり、筋力低下には伝導ブロックや軸索変性などの病態を要します
- 伝導遅延においては脱髄がどこにあるのかを考えることが重要であり、特に偏っているときはCIDPを意識してください
- 脛骨神経は生理的な分散と生理的な振幅低下が大きい神経なので、「下肢だけ脱髄」という所見は要注意です