自己免疫性水疱症 (天疱瘡・水疱性類天疱瘡) における免疫グロブリン製剤の使い方
<p>皮膚科領域 わたしの治療</p>

石井 文人 先生
久留米大学医学部皮膚科学教室 准教授
Q1|天疱瘡・水疱性類天疱瘡の診断時に留意されている点は何ですか?
A1
診断する際は、臨床症状に加えて、病理組織学的検査、自己抗体検査が必要です。尋常性天疱瘡や落葉状天疱瘡、典型的な水疱性類天疱瘡の診断は決して難しいものではありませんが、非典型例や感染症で皮膚症状が修飾されている場合では、病理検査や自己抗体検査が重要となります。また、湿疹や蕁麻疹など、水疱症とは想像し難い初期症状で来院される場合もあります。本疾患は日常診療で遭遇する機会が多くはないだけに見落とすことがないように努め、なかなか治りにくい湿疹等の場合には「もしかして」と、適切な検査により鑑別・診断することが重要となります。
Q2|天疱瘡・水疱性類天疱瘡の治療はどのように進めていますか?
A2
診断と同時にPDAI(Pemphigus Disease Area Index)やBPDAI(Bullous Pemphigoid Disease Area Index)による重症度判定を行い、ガイドライン(GL)1,2)に則って治療を進めます(図1)。基本はステロイド内服治療であり、病型や重症度、背景因子によってアレンジします。当科の場合、ステロイド単独療法を中心に治療を開始し、免疫抑制剤や他の薬剤等との併用を検討していますが、感染症リスクがある、糖尿病がある等、高用量のステロイドが投与できない背景を有する場合には、早期からの血漿交換療法や免疫グロブリン(IVIG)療法等を考慮するときもあります。なお、併用薬を選択する際は、GLの推奨度、すなわち、エビデンスを参考としています。ただし、患者さん個々の病態に合わせた選択が重要であることは言うまでもありません。


Q3|どのような患者さんに静注用免疫グロブリン(IVIG)療法を選択していますか?
A3
ステロイド効果不十分例が対象となりますが、以下の投与時期が挙げられます。ひとつは、初期治療における難治例で、ステロイド単独あるいは免疫抑制剤の併用を行っても病勢コントロールができない場合、いわば地固め療法として行う場合です。また、治療維持期に再燃した場合、あるいは、臨床や抗体価の推移よりステロイドを減量しきれない場合に、IVIG療法の併用を選択しています。また、感染症リスクの高い患者さんでは、免疫抑制剤の投与や血漿交換療法が難しい場合も少なくないので、早期からのIVIG療法を考慮しても良いでしょう。表は、過去10年間に、当科でIVIG療法を行った入院例をレトロスペクティブに検討した成績です3)。IVIG療法は、ステロイドに他治療を併用している症例で最も多く使用され(69.6%)、延べ回数で検討した治療効果で「改善」の判定は69回中49回(73.1%)でした。また、CR on minimal therapy※を達成した症例は30例中23例(76.7%)で、そのうち約半数に1回以上の再発が認められました。IVIG療法を適切に使用することで、寛解も可能であると考えられます。IVIG療法を検討する際の参考となれば幸いです。
※ PSL換算≦10mg/日かつminimal adjuvant therapy(免疫抑制剤)を2ヵ月間継続

Q4|IVIG療法において留意すべき点は何ですか?(副作用)
A4
最も留意しているのは血栓症リスクです。IVIGを投与する前には必ずD-dimer等を測定して血栓症リスクを評価しています。また、D-dimerが正常範囲内であっても、やや高値であれば、ろれつが回りにくい等の構語的問題やふらつき等、血栓症を疑う臨床症状の有無を確認することも重要です。そして、IVIGの投与にあたっては、血栓症リスクを高めないために投与速度を調整したり、投与中に酸素飽和濃度をモニターすること等も必要だと考えます。
Q5|天疱瘡・水疱性類天疱瘡の治療において注意すべき点、問題点等ご教示ください(高齢者の治療)
A5
治療の基本が高用量ステロイドの投与である以上、糖代謝への影響、感染症や骨密度の低下に対しては常に留意する必要があります。これらは、高齢であるほどそのリスクは自然と高まりますし、本疾患は高齢者が少なくありません。したがって、これらの合併症に細心の注意をはらうとともに、治療期間が長期とならないような治療戦略が重大なポイントと言えるかもしれません。そしてこれらの合併症を防ぐには、患者さんへの指導も大切です。治療により血糖値や血圧が上昇しやすいことを理解していただいたうえで、食事指導(カロリー調整、減塩食等)や運動指導を行うのが良いでしょう。また、治療の進歩により、本疾患の予後はずいぶん改善されましたが、皮膚傷害によりびらんが多発しうる本疾患では、感染症が重大な死因となります。その観点からも、IVIG療法は、本疾患の治療において重要な役割を担っていると考えます。
1)天疱瘡診療ガイドライン作成委員会., 日皮会誌 2010; 120: 1443-1460.
2)類天疱瘡 (後天性表皮水疱症を含む) 診療ガイドライン作成委員会., 日皮会誌 2017; 127: 1483-1521.
3)野見山留衣 他., 皮膚病診療 2021; 43: 106-111.