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うつライブラリー

<p><span style="font-family:&apos;Noto Sans&apos;, -apple-system, BlinkMacSystemFont, &apos;Segoe UI&apos;, Roboto, &apos;Helvetica Neue&apos;, Arial, &apos;Noto Sans&apos;, sans-serif, &apos;Apple Color Emoji&apos;, &apos;Segoe UI Emoji&apos;, &apos;Segoe UI Symbol&apos;, &apos;Noto Color Emoji&apos;;font-size:16px;">-地域とともに歩むうつ病治療-</span></p>

領域別情報・医療情報

【うつライブラリー】-地域とともに歩むうつ病治療-

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うつ病の多様な症状を精神科専門医が語る~My Area's Opinion~

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真のリカバリーを目指したうつ病治療

エモーショナルブランティングについて

岩田 仲生 先生(藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座 教授)

近年、うつ病の真のリカバリーを目指す上で、どの症状に着目するべきか、それらの症状をどのように評価し、そして、どのような治療選択が望ましいのかといったことが、積極的に議論されています。そこで今回、藤田医科大学医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生先生に、「真のリカバリーを目指したうつ病治療」について、国内外で関心が高まっている「エモーショナルブランティング」を中心にご解説いただきました。

 

抗うつ薬の治療反応予測因子に関する知見

米国のSTAR*D試験及び欧州のGENDEP試験の結果を用いて、抗うつ薬の治療反応性を検討した研究があります。GENDEP試験では遺伝子の影響についても検証しており、同試験で用いられたうつ病評価尺度(MADRS、HAM-D17、BDI)の因子解析がUherらによって行われました。その結果、47の評価項目は3つの因子(Observedmood、Cognitive、Neurovegetative)に分けられ、さらに6つの特質(症状のグループ:抑うつ気分、不安、悲観的、興味・関心ー活動、睡眠、食欲)に分類されることが示されました(図1)1)。したがって、うつ病診療においては、「抑うつ気分」と「不安」で構成される『Observed mood』、「悲観的」と「興味・関心ー活動」で構成される『Cognitive(認知)』、「睡眠」と「食欲」で構成される『Neurovegetative(自律神経系)』という3つの生物学的な要因を考慮し、治療を行っていくことが望ましいのではないかと考えています。

図1:GENDEP試験及びSTAR*D試験     
 抗うつ薬の治療反応予測因子の検討
画像(PC)
本文

線形混合効果モデル(調整因子:ベースラインのうつ病重症度、年齢、性別、参加施設)

カテゴリー項目の因子解析により、「Observed mood」、「Cognitive」、「Neurovegetative」の3つの主な因子が特定された。     
これら3因子は、さらに次の6つの特質に分類された。「抑うつ気分」、「不安」、「悲観的」、「興味・関心-活動」、「睡眠」、「食欲」。     
*:「活動」と「活力」の項目は、3因子の中で「Observed mood」に含められたが、6つの特質では「抑うつ気分」と「興味・関心-活動」へ均等に分類された。     
GENDEP:Genome-based Therapeutic Drugs for Depression     
STAR*D:Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression

対象・方法:     
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:     
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変     
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。     
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

画像(SP)
本文

線形混合効果モデル(調整因子:ベースラインのうつ病重症度、年齢、性別、参加施設)

カテゴリー項目の因子解析により、「Observed mood」、「Cognitive」、「Neurovegetative」の3つの主な因子が特定された。     
これら3因子は、さらに次の6つの特質に分類された。「抑うつ気分」、「不安」、「悲観的」、「興味・関心-活動」、「睡眠」、「食欲」。     
*:「活動」と「活力」の項目は、3因子の中で「Observed mood」に含められたが、6つの特質では「抑うつ気分」と「興味・関心-活動」へ均等に分類された。     
GENDEP:Genome-based Therapeutic Drugs for Depression     
STAR*D:Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression

対象・方法:     
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:     
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変     
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。     
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

図2:GENDEP試験及びSTAR*D試験    
  ベースライン時の「興味・関心ー活動」スコアと寛解(HAM-D17≦7)との関連性
画像(PC)
本文

対象・方法:    
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:    
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

各試験の患者は、ベースライン時の興味・関心ー活動スコアを五分位数で区分(X軸の1~5)し、最終来院時に寛解(HAM-D17≦7)を達成した割合をY軸に示した。    
GENDEP:Genome-based Therapeutic Drugs for Depression    
STAR*D:Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変    
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。    
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

画像(SP)
本文

対象・方法:    
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:    
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

各試験の患者は、ベースライン時の興味・関心ー活動スコアを五分位数で区分(X軸の1~5)し、最終来院時に寛解(HAM-D17≦7)を達成した割合をY軸に示した。    
GENDEP:Genome-based Therapeutic Drugs for Depression    
STAR*D:Sequenced Treatment Alternatives to Relieve Depression

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変    
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。    
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

表1:GENDEP試験及びSTAR*D試験    
  「興味・関心ー活動」に分類された各評価尺度の下位項目
画像(PC)
本文

対象・方法:    
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:    
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

GENDEPの「興味・関心ー活動」を構成する各下位項目に対して、STAR*Dで使用された尺度の中から、極めて類似した内容及び情報源(自記式と医師の評価)について1つ以上の項目を特定した。MADRSの項目8「感情を持てないこと」は、「興味」と「気分反応性」の両方の情報を含んでいるため、IDSの2項目を選択した。BDIの項目15「労働」の自記式評価に相当する項目は、STAR*Dでは特定できなかった。

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変    
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。    
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

画像(SP)
本文

対象・方法:    
中等度から重度の大うつ病性障害患者(ICD-10/DSM-Ⅳ)811例を対象にエスシタロプラムまたはノルトリプチリンを12週間投与したGENDEP試験において、MADRS、HAM-D17、BDIの47項目を因子解析して得られた特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応予測因子を解析した。又、STAR*D試験のレベル1からシタロプラム(本邦未承認)が最大14週間投与され、投与後の評価が1回以上あった外来通院中の成人大うつ病性障害患者3,637例を対象に、同様の解析を行い、GENDEP試験の再現性を確認した。

Limitation:    
本研究ではうつ病を一般的なうつ病の評価尺度を用いて評価したため、他疾患との鑑別が不十分な可能性がある。GENDEP試験及びSTAR*D試験は従来の臨床試験ほど厳密には管理されていないため、交絡因子を生じている可能性がある。

GENDEPの「興味・関心ー活動」を構成する各下位項目に対して、STAR*Dで使用された尺度の中から、極めて類似した内容及び情報源(自記式と医師の評価)について1つ以上の項目を特定した。MADRSの項目8「感情を持てないこと」は、「興味」と「気分反応性」の両方の情報を含んでいるため、IDSの2項目を選択した。BDIの項目15「労働」の自記式評価に相当する項目は、STAR*Dでは特定できなかった。

Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.より改変    
GENDEP試験でLundbeck社が試験薬を提供した。    
著者にLundbeck社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

さらに、Uherらは因子解析で得られた6つの特質(症状のグループ)を用いて、抗うつ薬の治療反応を予測する因子が何かを解析しました。GENDEP試験ではSSRIと三環系抗うつ薬を用いて、STAR*D試験では、SSRIから開始して、効果不十分な場合には他剤に切替えたり、組み合わせたりしながら、寛解が得られるかを検討しています。2試験でそれぞれ抗うつ薬の治療反応予測因子を検討したところ、ベースライン時の「興味・関心ー活動」の症状が抗うつ薬の治療反応性を予測するという結果が得られました。この結果が2つの試験から立証された、ということは大変意義があることです(図2)1)。MADRSやHAM-D17などの下位項目から「興味・関心ー活動」に分類されたのは、「興味がわかない」、「やる気が出ない」、「動けない」、「どうしていいかわからない」、「集中できない」、「決められない」、「全然楽しくない」、「感情を持てない」といったものであり(表1)、これらの症状が強いケースでは抗うつ薬への反応性が悪いことが示唆されます。さらなるうつ病のリカバリーを考える上では、患者さんの「興味・関心ー活動」の症状にも着目し、薬剤選択を行うことが重要ではないかと考えます。

図3:エモーショナルブランティングの例
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監修:藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生

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監修:藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生

表2:エモーショナルブランティングの歴史
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2)Jampala VC et al.; Am J Psychiatry. 1985, 142, 608-612.   
3)de Leon J et al.; J Clin Psychiatry. 1993, 54, 103-108.   
4)Opbroek A et al.; Int J Neuropsychopharmacol. 2002, 5, 147-151.   
5)Joshi A et al.; Dement Geriatr Cogn Disord. 2014, 38, 79-88.   
6)Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.

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2)Jampala VC et al.; Am J Psychiatry. 1985, 142, 608-612.   
3)de Leon J et al.; J Clin Psychiatry. 1993, 54, 103-108.   
4)Opbroek A et al.; Int J Neuropsychopharmacol. 2002, 5, 147-151.   
5)Joshi A et al.; Dement Geriatr Cogn Disord. 2014, 38, 79-88.   
6)Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.

図4:抗うつ薬単剤服用者のエモーショナルブランティング有無
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対象・方法:    
2010年9~10月にカナダ、米国、英国のインターネット調査パネルに属する18歳以上の7,966名を対象に、2回のインターネット調査を実施した。初回調査ではは専門医によりうつ病と診断され、少なくとも2ヵ月間抗うつ薬治療を受けている寛解期又は軽症うつ病患者(HAD-D≦12で自動判定)854名と過去に専門医よりうつ病の診断を受けたが、少なくとも過去2ヵ月間抗うつ薬を服用しておらず、寛解期にある者(HAD-D≦7で自動判定)150名(うつ病回復者)を特定した(他の向精神薬服用者は除外)。2回目の調査では、抗うつ薬単剤服用者669名を対象にエモーショナルブランティングについて調査した。エモーショナルブランティングのスクリーニング質問に5段階法で「少し」「普通に」「かなり」と回答した場合、「エモーショナルブランティングあり」とした。

Limitation:    
自己申告による調査であり、うつ病の診断及び入力データ等に不確実性がある。HADスケールは気分・感情面での回復の全てを捉えていない可能性がある。英語以外でエモーショナルブランティングの検証済みスケールがない。抗うつ薬間の違いをみるためには、大規模な調査が必要である。インターネット調査のため、対象が若年者に偏っている。

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.より作図    
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

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対象・方法:    
2010年9~10月にカナダ、米国、英国のインターネット調査パネルに属する18歳以上の7,966名を対象に、2回のインターネット調査を実施した。初回調査ではは専門医によりうつ病と診断され、少なくとも2ヵ月間抗うつ薬治療を受けている寛解期又は軽症うつ病患者(HAD-D≦12で自動判定)854名と過去に専門医よりうつ病の診断を受けたが、少なくとも過去2ヵ月間抗うつ薬を服用しておらず、寛解期にある者(HAD-D≦7で自動判定)150名(うつ病回復者)を特定した(他の向精神薬服用者は除外)。2回目の調査では、抗うつ薬単剤服用者669名を対象にエモーショナルブランティングについて調査した。エモーショナルブランティングのスクリーニング質問に5段階法で「少し」「普通に」「かなり」と回答した場合、「エモーショナルブランティングあり」とした。

Limitation:    
自己申告による調査であり、うつ病の診断及び入力データ等に不確実性がある。HADスケールは気分・感情面での回復の全てを捉えていない可能性がある。英語以外でエモーショナルブランティングの検証済みスケールがない。抗うつ薬間の違いをみるためには、大規模な調査が必要である。インターネット調査のため、対象が若年者に偏っている。

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.より作図    
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

うつ病におけるエモーショナルブランティングの評価とその実際

エモーショナルブランティングの特徴は、ポジティブな感情だけではなく、ネガティブな感情もなくなることであると言われています。うつ病患者さんにおけるエモーショナルブランティングの有無を確認する方法として、スクリーニングの質問の実施とエモーショナルブランティングの評価尺度であるODQ(Oxford Depression Questionnaire)による評価があります。前者は、抗うつ薬による治療中に4つの感情的影響(①感情的な変化は色々あるが、例えば、何かしら、感情が「麻痺する」または「鈍くなる」と感じることがある。②肯定的な感情や否定的な感情がなくなった。③あなたが周りの世界から切り離されていると感じる。④以前は気にかけていたことを今は気にしない。)をどの程度経験したことがあるかについて、口頭による聞き取りを行うというものです。一方、後者のODQはオックスフォード大学のGoodwinらが作成した評価尺度であり、開発当初は抗うつ薬の副作用として聴取する目的で作成されたことからOQESA(Oxford questionnaire on the emotional side-effects of antidepressants)と呼ばれていましたが、のちにエモーショナルブランティングがうつ病の症状としても捉えられるようになったことを受け、ODQへと名称を変更しています7)。ODQは、5つの項目別評価項目、26の質問項目から成り立っています(表3)。

表3:ODQ(Oxford Depression Questionnaire)項目別スコア
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The Oxford Depression Questionnaire   
https://innovation.ox.ac.uk/outcome-measures/the-oxford-depression-questionnaire-odq/   
(2021/8/5参照)   
Price J et al.; J Affect Disord. 2012, 140, 66-74.

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The Oxford Depression Questionnaire   
https://innovation.ox.ac.uk/outcome-measures/the-oxford-depression-questionnaire-odq/   
(2021/8/5参照)   
Price J et al.; J Affect Disord. 2012, 140, 66-74.

また、Goodwinらは、うつ病患者さんを対象にスクリーニングの質問とOQESAを用いてエモーショナルブランティングに関する調査を行った結果を2017年に報告しています6)。抗うつ薬単剤服用者669名にスクリーニングの質問を実施したところ、エモーショナルブランティングを有する割合は46%であることが確認されました(図4)。そして、エモーショナルブランティングを有する抗うつ薬単剤服用者(n=310)ではうつ病回復者(n=150)に比べてOQESAスコアが有意に高く(p<0.0001、One-way ANOVA)、さらにエモーショナルブランティングを有する抗うつ薬単剤服用者をHAM-Dスコア≦7群(n=140)と>7群(n=170)に分けてOQESAスコアを比較したところ、HAM-Dスコア>7群で≦7群より有意に高い結果が示されました(p<0.0001、One-way ANOVA)。このことから、うつ病がなかなか良くならない患者さんの背景には、エモーショナルブランティングが隠れている可能性がうかがえます。真のリカバリーを目指す上では、エモーショナルブランティングにも着目することが大事だと言えるのではないでしょうか。

図5:患者さんの捉え方の違い
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監修:藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生

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監修:藤田医科大学 医学部 精神神経科学講座 教授 岩田 仲生

患者さんのエモーショナルブランティングの捉え方

患者さんのエモーショナルブランティングの捉え方の特徴として、2つのポイントがあると考えています。

1つ目は、患者さんがエモーショナルブランティングを主観的に捉えることができるという点です(図5)。患者さんにエモーショナルブランティングの有無について尋ねると「ある」と答える方が多く、この点は統合失調症の感情鈍麻、感情の平板化やアパシーと異なるところかもしれません。実際、統合失調症の患者さんに感情鈍麻の有無について尋ねても、曖昧ではっきりした答えは得られず、感情鈍麻が客観的に認められても主観的な症状として訴えない方が多い傾向にあります。こうした経験を踏まえ、エモーショナルブランティングは感情喪失感、feeling of indifferenceに近いのではないかという印象を持っています。

2つ目は、エモーショナルブランティングを有する場合でも患者さんが必ずしも辛いと感じない点です。前述のGoodwinらの報告では6)、エモーショナルブランティングを有する抗うつ薬単剤服用者310名を対象にエモーショナルブランティングの日常生活への影響について10段階の評価尺度(VAS)を用いて聴取したところ、その評価にバラツキがみられ、主観的な認知に大きな違いがあることがわかりました(図6)。また、エモーショナルブランティングを肯定的に捉えている割合は38%、否定的に捉えている割合は37%であり、HAD-D[Hospital Anxiety and Depression scale (depression subscore)]はエモーショナルブランティングを否定的に捉えている群で9.5、肯定的に捉えている群で6.4という結果でした(図7)6)

図6:エモーショナルブランティングの日常生活への影響(海外データ)
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対象・方法:   
2010年9~10月にカナダ、米国、英国のインターネット調査パネルに属する18歳以上の7,966名を対象に、2回のインターネット調査を実施した。初回調査ではは専門医によりうつ病と診断され、 少なくとも2ヵ月間抗うつ薬治療を受けている寛解期又は軽症うつ病患者(HAD-D12以下で自動判定)854名と過去に専門医よりうつ病の診断を受けたが、少なくとも過去2ヵ月間抗うつ薬を服用しておらず、寛解期にある者(HAD-D7以下で自動判定)150名(回復者)を特定した(他の向精神薬服用者は除外)。2回目の調査では、抗うつ薬単剤服用者669名を対象にエモーショナルブランティングについて調査した。エモーショナルブランティングのスクリーニング質問で「エモーショナルブランティングあり」と判定された310名と回復者150名にOQESA(現ODQ)を実施した。日常生活への影響はVASスケール(10段階)で評価し、5未満を「否定的な認識」、5を「どちらでもない」、5より大きい場合を「肯定的な認識」とした。

Limitation:   
自己申告による調査であり、うつ病の診断及び入力データ等に不確実性がある。HADスケールは気分・感情面での回復の全てを捉えていない。英語以外でエモーショナルブランティングの検証済みスケールがない。抗うつ薬間の違いをみるためには、大規模な調査が必要である。インターネット調査のため、対象が若年者に偏っている。

HAD-D: Hospital Anxiety and Depression scale (depression subscore)

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.   
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

画像(SP)
本文

対象・方法:   
2010年9~10月にカナダ、米国、英国のインターネット調査パネルに属する18歳以上の7,966名を対象に、2回のインターネット調査を実施した。初回調査ではは専門医によりうつ病と診断され、 少なくとも2ヵ月間抗うつ薬治療を受けている寛解期又は軽症うつ病患者(HAD-D12以下で自動判定)854名と過去に専門医よりうつ病の診断を受けたが、少なくとも過去2ヵ月間抗うつ薬を服用しておらず、寛解期にある者(HAD-D7以下で自動判定)150名(回復者)を特定した(他の向精神薬服用者は除外)。2回目の調査では、抗うつ薬単剤服用者669名を対象にエモーショナルブランティングについて調査した。エモーショナルブランティングのスクリーニング質問で「エモーショナルブランティングあり」と判定された310名と回復者150名にOQESA(現ODQ)を実施した。日常生活への影響はVASスケール(10段階)で評価し、5未満を「否定的な認識」、5を「どちらでもない」、5より大きい場合を「肯定的な認識」とした。

Limitation:   
自己申告による調査であり、うつ病の診断及び入力データ等に不確実性がある。HADスケールは気分・感情面での回復の全てを捉えていない。英語以外でエモーショナルブランティングの検証済みスケールがない。抗うつ薬間の違いをみるためには、大規模な調査が必要である。インターネット調査のため、対象が若年者に偏っている。

HAD-D: Hospital Anxiety and Depression scale (depression subscore)

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.   
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

図7:エモーショナルブランティングの捉え方とHADスコア(海外データ)
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対象・方法、Limitationは図6参照   
HAD-D: Hospital Anxiety and Depression scale (depression subscore)

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.   
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

画像(SP)
本文

対象・方法、Limitationは図6参照   
HAD-D: Hospital Anxiety and Depression scale (depression subscore)

Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.   
著者に武田薬品工業株式会社及びH. Lundbeck A/S社よりコンサルタント料等を受領している者が含まれる。

エモーショナルブランティングの神経科学的機序

エモーショナルブランティングが起きる機序については、今のところ、ドパミンの低下やノルアドレナリンの低下が関与しているのではないかと考えられています。

そのため、抗うつ薬の種類によって、エモーショナルブランティングへの影響が異なることが考えられます6,8)

真のリカバリーを目指す上でのエモーショナルブランティングとは

エモーショナルブランティングはうつ病患者さんの約半数にみられると報告されている(図4)ことから、われわれが診療を行っているうつ病患者さんの中にも意外とエモーショナルブランティングを有している方が潜んでいると言えるのではないでしょうか。

不安症状であれば、患者さんが辛くて治療者に訴えることが多いのに対し、エモーショナルブランティングは自覚的な症状であるものの必ずしも治療者に訴えるわけではないため、治療者が気づかないことも少なくないのではないかと推測されます。したがって、今回紹介したスクリーニングの質問やODQによる評価を行うことで、エモーショナルブランティングを有する患者さんが顕在化する可能性があります。

私自身、患者さんへの聴取を試みてエモーショナルブランティングを有するケースが意外と多いことに最近気づかされました。実際の患者さんの訴えとしては、苦痛についての自覚が乏しい印象があり、例えば「以前のように一体感をもってみんなと一緒に楽しめることがなくなっているけれども、自分はうつ病を経験して休職もしたし、お給料ももらえているから大丈夫です」といったことをおっしゃったりします。また、エモーショナルブランティングを有するうつ病患者さんが復職した後、周りの人が「以前の○○さんとはだいぶ変わった」、「達観した感じでノリが悪い」と感じるようになり、対人関係が変化していくものの、患者さん本人はそれを意に介さないということがみられます。この状況は、患者さんにとって気に留めない状況かもしれませんが、意思決定や判断などの部分で問題になっていることもあるではないかと思います。

うつ病患者さんにおける真のリカバリーを考えると、患者さん自身がエモーショナルブランティングを苦痛だと感じていなくても、職場や家庭に戻ったときに周りの人が患者さんの変化を感じることから、「治療ゴールをどう捉えるか」について、議論がまだまだ必要であるかもしれません。しかしながら、治療者としてはエモーショナルブランティングで変わってしまった患者さんを元に戻してあげたいという思いがあります。

うつ病患者さんにみられるエモーショナルブランティングは、抗うつ薬の種類によってエモーショナルブランティングへの影響が異なることも示唆されています9)。うつ病の真のリカバリーを目指す上では、薬剤選択のあり方についても考えていく必要があるでしょう。また、エモーショナルブランティングがあることによって寛解に至っていない患者さんがいるかもしれません。意思決定や判断など認知機能に関する部分で影響を受けているうつ病患者さんに遭遇した場合には、うつ病の症状としてのエモーショナルブランティングや認知機能を考慮した治療を行うことが重要であると考えます。

出典

1)Uher R et al.; Psychol Med. 2012, 42, 967-980.

2)Jampala VC et al.; Am J Psychiatry. 1985, 142, 608-612.

3)de Leon J et al.; J Clin Psychiatry. 1993, 54, 103-108.

4)Opbroek A et al.; Int J Neuropsychopharmacol. 2002, 5, 147-151.

5)Joshi A et al.; Dement Geriatr Cogn Disord. 2014, 38, 79-88.

6)Goodwin GM et al.; J Affect Disord. 2017, 221, 31-35.

7)(https://innovation.ox.ac.uk/outcome-measures/the-oxford-depression-questionnaire-odq/

   2022/2/9参照)

8)Ascibasi K et al.; J Clin Psychopharmacol. 2020, 40, 594‒598.

9)Fagiolini A et al.; J Affect Disord. 2021, 283, 472-479.