SBS コミュニティ 多職種連携
<p>東北大学病院-その3</p>
腸管リハビリテーションセンターを設立するために、どのような体制を考えていますか
和田:次のステップとしては、すぐに腸管リハビリテーションセンターを設立するよりも、NSTとの連携や独自の多職種連携を実践して深めていきながら、枠組みを作り上げていく方が良いのではないかと思っています。そのような体制を築いたうえで内規を作成し、メンバーを集めて、院内、並びに周囲へと広報していくことが一つの方法かと考えます。
メンバーに関しては、内科の先生方にもっと入っていただけるとありがたいと思います。短腸症候群の場合、フォローするのは国内、特に小児領域では外科が中心となることが多いのですが、治療の際に内科の先生にも相談できると診療の幅が広がると考えています。また、脳と腸の働きは深くつながっているといわれることもありますが、精神的な影響が腸管の機能に影響を及ぼすことが良くありますので、精神科や心療内科の先生にも協力いただきたいと思っています。
佐藤:臨床心理士の方にも、ぜひご協力してもらえればと思っています。特に、小児分野のスペシャリストもいらっしゃいますので、そういう職種の方にも参加してもらえれば、より患者さんにとって必要としている医療を提供できるようになると思います。
渡辺:成人の患者さんでは、ストーマ外来を受診されている方も多数いらっしゃいますので、ストーマ認定看護師の方などにも、ぜひご協力してもらいたいと思います。
腸管リハビリテーションセンターを設立するために行っていきたいと考えている活動はありますか
和田:現在は海外を見本に取り組んでいるところがありますが、日本の実情とあわせて考えていく必要があると感じています。そのためにも、さらに海外で先進的に取り組んでいる施設の方法を学び、当施設に持ち帰って導入を検討していく必要性も考えています。
例えば、海外の腸管リハビリテーションや小腸移植に関する学会に参加した際には、近年では外科医や移植医だけではなく、内科医が多く参加している学会もあり、栄養士やコーディネーターが中心となって行われているセッションも見受けられます。日本の学会でも腸管リハビリテーションに関する演題が増えつつあり、そのような中でこの東北大学がモデルケースとなれればと思います。
渡辺:海外の学会に参加して勉強する必要性は私も感じています。特に、ヨーロッパではNSTに関する取り組みが非常に進んでおり、点滴の管理法なども日本と大きく違う点があるため、様々な方法を学びながら、どのように管理していくのが良いのか、考えていく必要があると思います。 そのようなときにチームが存在していると、メンバーで一緒に考えたり、プロジェクトを立ち上げたりしやすくなりますので、より多くの新たな取り組みを東北大学から発信できるのではないかと思います。
和田:東北大学では先駆的な取り組みを行っていて、それが患者さんのために非常に役立っている、ということをきちんと研究成果として社会に発信していくことが重要であると考えています。そのような取り組みに共感する施設が増え、全国的に広がっていけば、センターの意義をより多くの先生方に感じていただけるのではないでしょうか。
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最後に、今後の展望について、一言ずつお願いします
工藤:腸管リハビリテーションセンターだけではなく、他の取り組みにも言えることですが、要はどのような取り組みを行っているかが重要で、結局のところ、人と人とのつながりが非常に大切であるということを改めて考えさせられました。
日常的な診療の中でも様々なことが起こりますので、日ごろから人間関係を意識しながら取り組んでいくことで、この腸管不全という特化した診療で必要な強い結びつきが生まれていくのだと思います。
今はその土台となる部分に取り組んでいる段階で、その先に、センターが設立されていくのだと思います。今はこの小さなつながりを大切にしながら、腸管リハビリテーションの診療に取り組んでいければと思っています。
中村:現時点で、施設内でもこのような取り組みはあまり知られていないように思いますが、少しずつ、様々な職種の方を巻き込みながら、協力して取り組んでいければと思います。今はNSTや個人的なつながりに頼っている部分がありますが、そのようなつながりが体系化、標準化されてまとまっていければと思います。
佐藤:私はお願いしたことの結果を必ずフィードバックすることを心がけています。メンバーはみんな、本当に苦労されて、患者さんのために真剣に取り組んでいるので、こういうことができた、無事に入学できた、という結果をお伝えすると、とても喜んでくださり、次のモチベーションへとつながっていきます。私の役割は患者さんをとりまく医療環境をコーディネートしていくことなので、患者さんと医療者の間に立って、少しずつ、チームの団結力に貢献できればと思います。
稲村:NSTに長く携わってきて、センター化された組織にも、その前段階の組織にもそれぞれ良い部分があると改めて感じています。また、これまでの経験を活かしつつ多職種のみなさんと一緒に腸管不全の患者さんの対応にあたっていくとともに、チームが変化したり進化していく過程を若い管理栄養士を含めたくさんの人と共有できればと考えます。そうした一人一人の経験は、今後の院内全体のチーム医療活性化につながっていくのではないかと思います。
大竹:腸管不全の患者さんのことをまだ知らない方がたくさんいるので、このような領域があるということや、取り組みの実際など、広く情報を発信していけたらと思います。まずは現状を知っていただくことが、各施設や教育機関などでも、新たな気づきや行動に結びつくきっかけになります。ただ現状を伝えるだけではソーシャルアクションとしては弱いので、いかに自分ごととしてとらえ、考えてもらえるか、そういったことを意識しながら、院内外のネットワークを活用して情報発信していければと思っています。
渡辺:短腸症候群をはじめとする腸管不全の患者さんは、長期間、診療していく必要がありますので、長期的に起こりやすい合併症の管理が重要となります。長期にわたる管理の中で、ときに合併症が命取りになることもありますので、安全な管理と、患者さんのQOLもきちんと考えた適切な治療を実現するために、成人の科と小児の科で協力しながら取り組んでいければと思います。今後、医療が進歩するごとに短腸症候群は増えていく可能性がありますので、東北大学のように先駆けて取り組み、事例を積み重ね管理方法を確立していくことが、全国的な医療の発展に大きく貢献できるのではないでしょうか。
和田:皆さんが述べられたように、どのような体制が良いのか、という点は色々あるかと思いますが、今の取り組みの方向性には間違いなく、重要な基盤となっていると感じていますので、この体制を維持しつつ、さらに、必要なメンバーを加えながら体系的に取り組んでいければと思います。その先に、腸管リハビリテーションセンターが出来上がるのだと確信しています。
あとは、もう一点、社会的に発信していく必要性も強く感じました。これまでも小児系の学会で当施設の取り組みを紹介してきたことはありますが、もっと積極的に、海外の学会などでも発表していく必要があると思います。実際、海外でも腸管リハビリテーションセンターを中心としたチーム医療の事例が急に増えてきたのはこの10年くらいの間で、試行錯誤しながら様々なスタイルを確立しています。
日本の静脈栄養管理なども非常に高いレベルにあるのですが、あまり発信されていないため、日本の腸管不全治療は遅れているというイメージを持たれてしまっていると感じます。日本でも、当施設をはじめ、様々な取り組みを行っている施設があるので、積極的に発信しながら、腸管リハビリテーションの分野で世界をリードしていけるような取り組みにつなげていくことができればと思います。