SBSの臨床
監修:大阪大学 名誉教授/滋慶医療科学大学大学院 教授 和佐勝史先生
SBSの診断
SBSは、腸管を大量に切除した結果起こる病態であるので、手術中に残存腸管の長さが測定され、手術所見に記載されていれば診断は容易である。手術所見が得られない場合、上部消化管造影法により、残存腸管のおおよその長さを評価することができる(図1)。
図1 残存小腸(矢印)25cmの短腸症候群の消化管造影
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和佐勝史先生ご提供
胃、十二指腸、上行結腸も造影されている。
SBSの主な症状
- 栄養障害、下痢、脱水、体重減少が主な特徴である
- 外科的切除後の機能的腸管順応にもかかわらず、多くのSBS患者は、必要な水分および栄養の補給・維持のために非経口的栄養補助の持続的な使用を必要とする
- 欠乏する栄養素によって症状は多岐にわたる
腸管切除による栄養吸収の変化
腸管は、部位によって吸収できる栄養素が異なるため(図2)、切除部位、長さによってSBS患者の吸収できる栄養素も異なる。
ビタミンB12と胆汁酸以外の栄養素は空腸で吸収されるものが多いため、空腸切除後は有意に栄養吸収が低下するが、回腸の絨毛長が延長し、その機能はその後代償される。そのため、残存回腸の有無がSBS患者の予後を左右する。
また、結腸温存により水分や電解質の損失が有意に減少し、特に、回盲部の有無はSBS患者の経過予測のために重要である。
図2 正常腸管での各種栄養素の吸収部位
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千葉正博ほか:臨床栄養:117(6):645-651,2010
SBSの病期分類
腸管切除後の臨床経過は大きく3期に分けられる(表2)。
第1期
多量の下痢にともなう水分と電解質の喪失が起こる。中心静脈栄養(Total Parenteral Nutrition:TPN)による栄養投与で水分、電解質の補充の必要がある。
腸管麻痺期:水分、電解質に注意しながら管理する。
腸管蠕動亢進期:腸蠕動の亢進のために頻回の水様下痢をきたす。水分、電解質を中心に、すべての栄養素の喪失を引き起こしやすい。このため、1ヵ月以上のTPNを要することが多い。
第2期
残存腸管の再生が促進され、吸収能の改善にともない下痢が改善される場合が多い。経腸栄養(Enteral Nutrition:EN)を開始し、TPNの投与を減少させる。
第3期
残存する腸管が適応する時期である。そのため、この時期はENを推し進め、TPNからの離脱を図る。
表2 SBSの術後経過と病態
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日本臨床栄養代謝学会 編集:日本臨床栄養代謝学会 JSPEN テキストブック、2021年4月、P440-442より作表
消化吸収能に影響を及ぼす因子
腸管切除部位や残存腸管の長さによって栄養素の吸収能が異なり、予後にも影響する。SBSの消化吸収能に影響を及ぼす因子には下記が挙げられる。
- 手術時年齢
- 残存小腸の長さ
- 回盲弁の有無
- 残存小腸の病変の有無
- 合併切除臓器の有無
- 切除小腸の部位
「和佐勝史:短腸症候群に対する栄養療法,日本静脈経腸栄養学会 静脈経腸栄養ハンドブック
(日本静脈経腸栄養学会編),p.372,2011,南江堂」より許諾を得て転載.