〈アウトプット効率化術1〉進化を続ける生成AI


業務効率化のトップランナーの先生方に、デジタル技術を駆使した「今日からできる」仕事術について解説していただく本シリーズ。今回は、2023年12月上梓の著書『医療者のためのChatGPT:面倒な事務作業、自己学習、研究・論文作成にも!』が好評を博した、国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター病院臨床検査部睡眠障害検査室医長 松井健太郎先生に、アウトプット効率化術について話を伺いました。
2022年11月にOpenAI社が公開したChatGPTを皮切りに、次々と登場し、注目を浴びている生成AIサービス。ユーザーと対話し、新たなコンテンツを生み出すことのできる生成AIの領域では、まさに日進月歩の進化が起こっています。
日常的な事務作業から手間のかかる面倒なタスクの処理、自己研鑽に至るまで、生成AIを用いてアウトプットの効率化を図っている松井先生に、最新のアップデート情報を踏まえ、生成AIサービスの選び方や使い方のコツを詳しく解説していただきました。
本記事は、2024年12月3日時点(インタビュー日)の情報に基づいています。本記事にはインタビューに応じた医師個人の見解が含まれますが、所属医療機関を代表するものではありません。また、あくまで参考意見であり、弊社として当該意見の妥当性を保証したり、所属医療機関や記載のサービス等を推奨するものではありません。生成AIを用いたサービス等には、入力情報の学習用データとしての取り込み等による情報漏洩の可能性、誤情報の出力、生成物による著作権侵害等のリスクが含まれる場合があります。これらのリスクの一部は、ファクトチェックや学習用データとして利用されないための「オプトアウト申請」等で低減できる可能性があります。AI技術の発展とその適用には予測不能の面があり、本記事から得た情報に基づき生じた結果に関して、弊社等は一切の責任を負いかねます。ご了承の上、ご自身の責任にてご利用ください。
主要な生成AIサービスの性能はどれも五分五分、好み次第
生成AIを用いたオンラインサービスの中で、現在最も知られているのはChatGPTだと思いますが、他にGemini(ジェミニ)やClaude(クロード)もよく使われていると感じます。これらのサービスは、それぞれに使い勝手が異なります(表1)。
表1 主要な生成AIを用いたオンラインサービス


私も3つとも活用しており、例えばpythonでのちょっとした解析や作図が必要なときにはChatGPT、こなれた日本語表現が欲しいときにはClaude、大量のファイルを読み込ませるときにはGemini(Google AI Studioから使用)、といったように活用シーンに応じて使い分けています。ただ、生成AIが進化するにつれ、性能面での差はあまりなくなっているというのが実感です。
いずれも無料で使い始めることができます(一部機能は有料)。使い方や予算は人によって違いますから、まずは無料版を利用して使い勝手を確かめてみてください。それから、メインで使うツールを選んでいくのがよいでしょう。
生成AIツール活用時に留意すべき3つのリスク
業務に生成AIを活用する場合、リスクが伴うことを念頭に置くべきですが、リスクの最たるものが誤った情報の生成(ハルシネーション)です。ざっくりと説明すると、生成された内容の9割5分は正しいのですが、ほんの少しだけ「もっともらしい嘘」が混じってしまい、しかもその分野の専門家でなければ見抜くのが難しいほど自然に見えるという厄介なものです。
誤った情報を他の人に共有しないために、ファクトチェックは避けられません。私も、生成AIを活用することで文章を書く時間が大いに短縮される一方、ファクトチェックの時間と手間は確実に増えました。笑い話のようですが、人間にしかできない確認作業の負荷が増えることによるストレスは、今後問題になるかもしれません。
著作権についても留意が必要でしょう。文化庁作成の「AIと著作権に関する考え方」(2024年3月15日)1)にも「著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、AI やこれに関連する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等が予想されることから、引き続き情報の把握・収集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていく」とあります。ケースごとに熟慮する必要があるでしょう。
個人情報の扱いについても、万全の対策と細心の注意が必要です。ChatGPTをはじめとする生成AIは、インターネット上に蓄積された情報からはもちろん、ユーザーとの対話からも学習する場合があります。学習させないための「オプトアウト」という設定ができる場合もありますが、できないサービスもあります。学習した内容がAIの「知識」となり、他のユーザーへの回答に反映される可能性がないとは言い切れません。そもそも、個人が特定されるような患者さんの情報をインターネットに上げることは避けるべきでしょう。

回答の精度を上げるトリガープロンプト
生成AIと対話するときは、入力スペースに質問や指示を書き込みます。これをプロンプトと言います。単純に「〇〇について教えて」などと入力するだけでも回答してくれますが、プロンプトに少し工夫を加えると回答の精度が上がります。それが、トリガープロンプト(俗にいう「プロンプト芸」)と呼ばれているコツです。よく使われているものを、いくつかご紹介しましょう。
1.ステップ・バイ・ステップで考えてください
目標達成の手順を考えてもらうような複雑な質問で使用すると、論理的で整理された回答になる。
2.あなたは一流の〇〇〇です
プロンプトの冒頭で「役割:あなたは一流の研究者です」などと指定すると、専門的なデータを多く参照して回答する。
3.以下の例を参考に回答してください
プロンプトの中に質問・回答の例を挿入することで、ユーザーが望む形の回答を得やすくなる。
4.今の成果は60%です。100%になるように改良してください
返ってきた回答に満足できなかった場合に使う。具体的な改良箇所を指摘しない、理不尽な指示ともいえるが、回答のクオリティが少し上がる。
このほか、Markdown記法を用いると、指示がより理解されやすくなるというコツもあります。Markdown記法とは、例えば「#」を文頭に付けるなどしてテキストを構造化する書き方のルールです。視覚的にも分かりやすくなるため、ユーザーにとっても把握しやすいというメリットもあります。
トリガープロンプトは、インターネット検索すれば他にも多数の例が出てきますし、自分なりのトリガープロンプトを開発することも可能です。例えば私は、「ステップ・バイ・ステップ」の応用として「仮説検証方式で考えてください」とプロンプトに記載することがあります。他にも、ChatGPTが生成する日本語は平板になりやすいので、奥行きのある文章が欲しいときには、「具体と抽象を行き来しながら書き直してください」と記載したりもします。
もう少し複雑な手法としては、生成AIがアウトプットした文章に対し、新しい情報を追加して再構成してほしいときには、追加情報のPDFやURLを添付して「このトピックを踏まえて書き直してください」と記載することもあります。
今後も繰り返し行う可能性の高いタスクであれば、最適な回答を得やすいように、自分なりにプロンプトを工夫しておくと業務の効率化につながります。どんなにわがままな依頼でも、何度修正してもらっても、人間と違ってAIは怒りませんから、いくらでも試行錯誤できます。
ただ、生成AIが進化するにつれて、特別なトリガープロンプトを使わなくても、最初からユーザーの意図に近い高精度の回答が得られることも増えてきました。先ほどの例でいうと、1.や2.のプロンプトなどは使っても使わなくても大差がなくなったというのが実感です。まずは生成AIツールを人間のアシスタントだと思って、普通に会話する感覚で使用してみるとよいでしょう。
文書作成支援やタスク改善で時短を実現
生成AIを用いてアウトプットを効率化するとしたら、まず考えられるのが、論文や雑誌記事などの執筆をサポートさせる使い方です。
例えば私は、ChatGPTのカスタマイズ機能であるGPTsや、Claudeのカスタマイズ機能であるProjectsなどに、自分が過去に執筆した複数の文書を読み込ませ、新たなテーマに合わせた文章を生成してもらうことがあります。生成AIによる文章作成能力は、総論のような長文の出力ではまだサポートの域を出ず、人間による修正が必須ですが、一般読者向けの短い原稿であれば、まずまず使えるレベルに達していると実感しています。
ChatGPTの登場は私にとって衝撃的でした。日常業務で手間がかかりそうなことをChatGPTにお願いすると、いとも簡単に回答してくれるのを目の当たりにし、鳥肌が立ちました。常に「ちょっと楽をできるテクニック」を追究している私にとって、まさに渡りに船でした。この感動をぜひ読者の皆さんとも共有したいと思います。
次回は、最新の生成AIを活用した日常業務でのアウトプット効率化について、私自身の経験に基づくユースケースをいくつかご紹介します。
例えば、毎月1回、5時間もかかっていたある面倒な定型業務は、生成AIの活用により2時間にまで時短できました。このケースについては、生成AIのアップデートに伴って改良を重ねてきましたので、現時点での最新の方法を説明します。また、厄介な文書作成業務を生成AIに肩代わりしてもらうことで、精神的ストレスが大きく低減されたケースもあります。詳しくご紹介しますので、ぜひお役立てください。

1) AIと著作権に関する考え方について 令和6年3月15日 文化審議会著作権分科会法制度小委員会(2024年12月12日閲覧)
松井 健太郎 先生
国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 病院臨床検査部 睡眠障害検査室 医長
2009年東北大学医学部卒業。東京女子医科大学病院、睡眠総合ケアクリニック代々木などを経て、2019年より国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターにて病院臨床検査部、睡眠障害検査室医長、2022年より現職(兼任)。睡眠障害に関する知見を広く発信している。2023年11月に発売された書籍『医療者のためのChatGPT』(新興医学出版社)の著者の1人であり、生成AIを駆使した業務効率化のトップランナー。

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